店舗訪問

【店舗訪問】五臓六腑にしみいる夫婦の味。アラカルトにこだわり固定客つかむ(@浅草)


「奥~」という言い方にならえば奥浅草になる。雷門、浅草寺周辺の喧騒を離れた静かな一角で引き戸を開ければ、そこは間接照明が似合うウッディーな空間。シェフの独自フレンチにナチュラルワインのマッチングでファンを迎える夫婦が生み出すやわらかな味の裏側とは。

■アラカルトで一日4組が基本

 一枚板のカウンターとテーブル2つで席数は15になるが、満席の状態は作らない。火曜から金曜の平日は4組のペアで一回転が基本。空きがあれば当日でも受けつけるし、遅い時間にはワインバーとしても利用できるが、「フレンチレストランとビストロのあいだをめざして始めたので、アラカルトにこだわってはいます」と椿澄子さん(48)。シェフで夫の椿豪さん(50)とともに店を切り盛りする。
 2歳違いで20数年のつきあいになるこの夫婦間に流れる空気が、確かな味の料理と自然派ワインのリストとともに、開業9年目になる店の持ち味を作り出していると見た。自分たちのことを「よくいえばフィーリングで、ち密な計算や計画がないペア」と言うが、肩肘張らずに人をすっと受け止める心地よさがある。シェフが開業前に勤めていた神楽坂のある店で、日本酒を飲みながら決めたという『しみいる』という店名が、実にしっくりくる。
 もっとも料理は色彩豊かで、味も本格的だ。最初の皿にぴったりのテリーヌから魚、肉のメインまで、国産を基本に旬の食材を組み合わせて季節ごとのメニューを構成する。料理はほとんどが2名向け。それぞれの皿に一人前ずつ盛り付けられる。普通の食欲の男女で3品ほどを、あらかじめシェアしながら楽しめる。人の間に同じ料理が並ぶコース感覚で、その日の気分にしたがって料理を組み合わせられるのが、アラカルトの持ち味。10年ほど前に恵比寿のある店でいきあった当時はめずらしいこのスタイルが、開業からの基本だ。もちろん希望しだいでおまかせのコースもOK。週末は昼間からアラカルト、コースとも受け付ける。

▲季節感あふれるメニュー(上写真)を間接照明が照らしだす。テーブルは仕切があり個室感覚だ(下写真)

■自然派ワインを料理にマッチング


 夫婦ともに大好きというナチュラルワインを、客が選んだ料理に合わせておすすめするのが澄子さんの役目。ときに食材をそのままに生かす料理にマッチングするため、どちらかといえば優しくやわらかめの味わいのワインが主。常に150種類ほど揃う。どれも自然豊かな環境で育ったぶどうを無添加で醸造した個性豊かなラベルだ。「大きなインポーターまかせではなく、小さいけれど愛情豊かに育てられたワインを選んでいます。若い人はお酒を飲まないと言われますが、数カ月に一度、『ナチュラーを揃えたこんな店に来たかった』と探し当ててきてくれる若い方々もいるのがうれしい。ワインに合う料理ではなく、シェフの感性で作られた皿にワインを寄せていく感覚でしょうか」

▲150種の優しい味わいのワイン(上写真)を渋い光沢のカウンターで(下写真)

 20代から料理に興味を抱いて飲食業に入り、結婚前に2人で出かけた店でフレンチの魅力に取りつかれたという豪さん。学生時代のアルバイトもふくめ、居酒屋やダイニングバーなど幅広く料理に向き合い、自分の味を探してきた。大箱のレストランに勤めていた30代半ばで開業を決意、神楽坂の洋食店で3年間かけて準備をした。繁華街ではなく静かな場所で、という希望から物件探しは神楽坂、人形町、荒木町、三軒茶屋などをめぐり、知り合いの紹介で現在の浅草にたどり着いた。豪さんによれば、「綿密なリサーチがあったわけではなく、たまたまここを見に来た日に市をやっていて、雰囲気がいいな、と思った」のが決め手。居酒屋だった店舗の小上がりをテーブルに、カウンターを高くしつらえ直して2016年11月にのれんをかけた。

▲目にもしみいる前菜(上写真)と季節ごとに変わるテリーヌ(下写真)もぜひ

■閉じた存在からアピールの姿勢も


 当初は「浅草でワインだけでは厳しい」「価格帯もある程度抑えないと」という地域の人々の声を聞きつつ、主に価格設定で悩んだが、コロナもあって「小さいけれど確かな生産者さんたちと向き合い、できるだけ国産の旬の素材を生かして適正な価格で出そう」と道が固まり、フォアグラやキャビアといったフレンチの定番は他で味わってくれればいいと迷いを吹っ切った。「学校を出た後に店で修業して本番で学ぶというフレンチの王道を経ていない僕は異色です。でも逆にいえばフレンチ以外の土俵も知っているということ。だからといって特に強みはありませんが、結局、料理人はやってきたことしかできないので」という言葉には力みがない。理屈に頼らない素朴さと真摯さが、心身にしみいってくる味の源泉だろう。主力商品のワインをふくめすべての食材や原料が値上がり傾向にあるが、「身を削ってやっています」「2人だからなんとかやっていける」と笑い合う夫婦の顔にこわばりはない。客単価は13,000円ほど。年齢層は40代から60代、タクシーで気軽に帰れる程度の距離の区内や近隣の区からの定期客がついた。
 課題は、店の持ち味をさらに広めていくこと。開業10年を前に、WEBサイトとSNSを見直して、インバウンドも含めて店の持ち味を今までのファンの外にも伝えていきたいという思いも強くなる。「始めた当初は知見もノウハウもないし、値段を決めるのもおっかなびっくりでした。でも店の形ができてお客さんもついてきて、これまで閉じた姿勢で来たのをすこし開いていこうか、と」と澄子さん。確かな腕とほがらかな接客を尊ぶ客層が広がるのは、ファンには痛しかゆしだろうか。ただ欧文にすると「スマイル」に近い店名の本質を、より多くの人に知ってほしいとも思える、そんな店だ。

▲季節感たっぷりのメイン料理はボリュームも十分

◎店舗情報
店舗名:French & Vin Naturel しみいる
住所:東京都台東区浅草4-14-1
電話:03-5458-1509
アクセス:東京メトロ浅草駅から徒歩12分
営業時間:火~金=17時30分~23時、土・日=22時 
定休日:月および不定(HP、インスタグラム:simiil2016で要チェック)
席数:15
禁煙
HP:https://www.simiil.com/

※「ワインと日本酒の品ぞろえにこだわった店」に関する記事は以下より

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