店舗訪問

【店舗訪問 『鉄板焼 お好み焼 わ』(新小岩)】飲食ビギナーが創業塾経て開店 激戦区で独特の価格帯を保ち10年を視野に


お世辞にも立地がいいとは言えない駅前の死角にある店にキープボトルが並ぶ。味の秘訣という厚めの鉄板で、さまざまな具材と独特の生地で作った焼き物ができあがる。40歳を前に飲食店の世界に飛び込んだ女将が打ち出した自然体の店作りが、固定客とネット客をしっかりとつかんだ。

■ネット検索で老舗店に飛び入り

 大型スーパーを横目に団地に向かう商店街を右に折れても、まだ店の灯りは見えない。店探しで歩いていれば、「この先はもう何もないな」と引き返す寸前に目に入るのが、『鉄板焼 お好み焼 わ』だ。新駅ビルがにぎわうJR新小岩駅北口で開業7年目を迎える。
 女将の小野有海さんは元専業主婦であり、元営業職の45歳。新小岩近くで生まれ育ち、2人の子どもを育てていた30代前半でシングルマザーとして地元に戻った。営業職で生計を立てていたが、どうも性に合わない。「40歳までに自分で何かをやりたい」と考えていたところ、和装で美容室をやっている知り合いの店を見て、「着物で鉄板焼きをやったらどうか」と思いつく。本当の直観だったが、そこからの行動力が並みではなかった。
 ポータルサイトの検索窓に「開業支援 修行 鉄板焼き」とキーワードを打ち込んで知った千駄ヶ谷の老舗で1年間、修行を経験した。「とにかく手際が悪くて、学生バイトにも引けをとるくらい」だったが、もともと開業支援をモットーにする店。60歳代のベテランオーナーばかりか、先輩たちもさまざまなアドバイスをしてくれた。「和服で小料理屋さんなどを開いても普通だし、きっと埋もれてしまう。30代のうちに開業したかったので、鉄板焼きを選びました」

▲お好み焼きは広島風(上写真)と関西風(下写真)の2種類から(ともに1,300円=価格はすべて税込み)

■さまざまなサポートを受け開店

 開業にあたって大きなサポートをしてくれたのが、母親だ。修行をしている娘のためにと情報収集を続け、葛飾区の創業塾という仕組みを発見した。融資先の金融機関と開業志望者のマッチングを数回の講座を開いて行う自治体の支援事業だ。1,500万円の融資を取り付けた。子育てをしながらの店舗経営なので、実家から歩ける範囲が条件。居酒屋だった現在の物件に行き当たって、2018年の7月に開業した。修行先の師匠から教わったノウハウを取り入れての開店だったが、絶対の条件が鉄板。厚いほど食感がよくなるという持論の師匠の言いつけ通りに1.9ミリの鉄板を据えた。小上がりをテーブルに変え、15席を揃えた。そのうち7席が鉄板を前にしたカウンター席だ。
 カウンターの前に座ると、大量のキープボトルとゴルフコンペのカップやお札がはさまった熊手が目に入る。どこか昭和の香りもする店に立つ女将は「公約通り」の和装。日本舞踊をやっていた母親の着物を活用することも考えたが、そこは鉄板焼きの店。油がはねて、そうは長持ちしない。各シーズン複数の洗濯可能の着物で着回しをしている。営業時は2人のアルバイトが控え、人手がないときには母親も手伝う。開店時から元飲食業の地元の人たちのアドバイスも受け、素直にしたがった。枝豆やお好み焼きの生地を使った餃子やピザなど修行店でのメニューを取り入れた鉄板焼きと、関西風と広島風の2種のお好み焼きがメインだが、居酒屋風のつまみも充実させた。

▲広島風の生地を使った工夫メニューは「わ餃子」(880円、ハーフは550円=上写真)や「レンコン焼き」(880円=下写真)など

■「人の和」が広がって

 店名は人の輪、和を示す。開店前後にアドバイスをしてくれた人たちから紹介で人の和が広がり、地元の個人経営者や事業主を中心に店のファンが広がった。棚に並ぶボトルがその輪の証し。客単価7,000円から8,000円ほどと、地域では高めの価格設定だが、人のやりくりさえつけば家族連れに客層を広げるために日曜も営業したいと意気込むほど、経営は堅調だ。ネットでの評価が高く、区外から女子会の予約が入るなど、輪は地元以外にも広がる。駅からすぐにもかかわらず、目立たないからこそ自然と生まれる落ち着いた雰囲気も、買われている理由らしい。
 出されたお通しは牛タンのカレー。筋やタンの端材を生かしたカレーは好評といい、確かにスパイシーさが胃袋を刺激する。鉄板焼きにはめずらしい焼き枝豆、師匠仕込みの餃子と進み、広島風お好み焼きをほおばると、素直で親しみやすい味がした。生地には師匠直伝の工夫が。修行先の名店の伝統を受け継いだ実直な姿勢と、細かな自分らしさを加えた自然体の女将の性格そのものがミックスされた食感だ。「お店は待ちの仕事なのでなかなか読めないし、物価高で厳しいけれど、それはどこも同じ。人の輪を大事にして地道にがんばりたい」
 10年続けば本物という飲食店。繁華街の死角から「わ」が広がり、あと3年で節目を迎えようとしている。

▲鉄板で焼いた「焼き枝豆」(上写真)は香ばしい。「公約通り」の女将は和装(下写真)

◎店舗情報
店舗名:鉄板焼 お好み焼 わ 
住所:東京都葛飾区西新小岩1-3-2 パレス新小岩1F
電話:03-5875-7365
アクセス:JR新小岩駅から徒歩1分
営業時間:17時~24時(ラストオーダー23時)
定休日:日
HP:https://www.teppanyaki-okonomiyaki.com/

※「広島風お好み焼き」に関する記事は以下より

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