店舗訪問

【店舗訪問 『ろばた焼 長州』(埼玉県・入間市)】客、職人、そして店の「三方よし」を支える女将が生み出す地域一番の繁盛店


池袋から約40分。埼玉県のベッドタウン入間市と飯能市にある3店舗の居酒屋チェーン、長州グループ。創業40年を超え、地域一番の繁盛店の社長で女将の花島綾さんに、その人気とこの秋にさらに1店舗増やす店舗拡大路線の秘密を聞いた。

■常連をがっちりつかむ人気の秘密

 埼玉県の西部、西武池袋線入間市駅から徒歩5分、駅前通りにある長州グループの本店『ろばた焼 長州』。毎週土曜日の16時、暖簾がかかると、いの一番にやって来て14席のカウンターの約半分に陣取るグループがある。50代から70代まで。仕事もバラバラ、住む地域も市内各地。夫婦連れあり、ひとり者あり。なんの属性もないグループだが、なぜかこの時間、この店、この席で集い、それぞれが好みの料理をオーダーして好みの酒を酌みかわす。
「ここに来るのはこの店のファンだから。女将の綾ちゃんのファンでもあるからね」
「ここに来ると落ち着くんだよ。料理も酒も美味いし」
「なんとなく土曜日のこの時間はこのメンバーで集まるようになっちゃったな」

 口々に語られるこのセリフにこそ、「地域コミュニティの集いの場」としてのこの店の魅力が語られている。約35坪、カウンターと小上がりと座敷を合わせて約75の客席(2階を合わせると120席)。人気の高さは、客数の3割を超える宴会率(週末は8割に達する)からもうかがえる。

▲地元の人々が楽しい時間を過ごす店内

■誰が食べても美味しい料理

 味とボリュームのバランスもいい。4人から40人を超えるグループでも受け付けてくれる。飲めない人がいても笑いが弾ける、若い店員たちの明るい雰囲気。『長州』なら誰を誘っても料理を任せて安心。知らない人と隣り合っても、やんわりと包んでくれる店の雰囲気がある。何より、連日割烹着姿で明るい笑顔とともに客席を飛び回る2代目社長で女将の花島綾さんが人気の源泉だ。

 綾さんが、その人気につながる日々の取り組みをこう語る。
「料理はほぼすべて食材の状態から手作りにこだわっています。冷凍物や出来合いのソースなどは使いません。例えばカニクリームコロッケならベシャメンソースも手作りです。うちは回転が早くて食品ロスも少ないので、常に新鮮な食材を使えています」
 グランドメニューは約120品。手書きのメニューに載せる季節のオススメは約40種類。毎日の朝礼で職人に新しいメニューを提案してもらい、週に2回その一部を入れ替えている。
『長州』の強みは、小学校五年生から洗い場を手伝い、30才から22年間女将として接客を仕切ってきた綾さんの存在だ。
「常連のお客様の宴会なら、予算を聞けばグループに合わせたメニュー内容にできます。年配のお客様ならボリュームは抑えてお好みの物をお出ししますし、若者たちならボリュームたっぷりのメニューにします」

 創業から40年を超えても、長州グループは一度も売上対前年比を落としたことがない。グループの総売上は3.5億円。本店だけでも1.4億円を誇る。好調な売上の背景には、連日地元客の様子をつぶさにうかがいながらもてなす女将が蓄積してきた顧客のデータベースがある。

■驚きの職人定着率

 もう一つ、これも綾さんの手腕のなせる技でもあるのだが、3店舗で14名いる調理職人の定着率も長州グループの人気の秘密だ。
 綾さんが言う。
「1番長い職人で25年。10年以上の人が半数以上います。採用したら8割は残ります。レトルトは使わずに毎日皮剥きや千切りをやるんですから、腕も上がります。厳しさもありますが、職人同士の仲もいいので、みんな長く働いてくれます」
 もちろんベテランになれば給料は上がる。プラスして、目標を達成すればポーナスも弾む。そうやって職人を大切にしてきたから、仕入れも味付けも、すべて現場の長に任せられる。年に一度は社員旅行にも行く。今年は3泊でベトナムへ。帰ったら、ベトナム食材の料理が並ぶことになるのだろう。
 11月の上旬には、本店から約200メートル離れた所に、新店舗を開ける予定だ。
「居抜きで入れるので、思い切って出店を決めました。カウンター中心のこぢんまりした店です。ジビエや新しい食材を使って、少し高めとなる客単価7000円程度を狙いたいと思っています」
 さらに綾さんはこうも言う。
「将来は独立したい職人に開業資金を出資する制度も整えたいと思っています。職人は誰もが独立したいもの。でも2000万円とも言われる開業資金はなかなか貯まりません。ならばうちとタイアップしてオーナーとして出店すればいいんじゃないかと……」
そんな制度が定着すれば、ますます有望な職人が集まる店になるだろう。
 連日満卓。宴会率も高い。職人体制も万全。内部留保もしっかりと確保している。
「まさにいま、うちは絶好調です」と綾さんは弾けるような笑顔を見せるが、「悩み」が一つある。新店舗の名前だ。
「うちは『長州』、『ひとまる』(武蔵藤沢駅前)『長門屋』(飯能市内)と、両親の出身地、山口県にゆかりの店名にこだわってきました。そこは変えたくないので何にしようかと迷っています」

 店名には、今につながる『長州』の味とスタイルの基礎を作った先代を大切にしたいという気持ちを込めたい。この思いにも、長州グループの人気の秘密を見た。

取材・文/神山典士



◎店舗情報
店名:ろばた焼 長州
住所:埼玉県入間市豊岡1-5-39
アクセス:入間市駅から480m
営業時間:17:00〜24:00(土曜日は16:00から。日曜日は23:00まで)
定休日:月曜日
席数:128席(カウンター15席、板の間23席、畳の間30席、2階宴会場60席)
HP:https://www.tyosyu.jp/index.html

※「家族飲み気分の居酒屋」に関する記事は以下より

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