東京メトロの四谷三丁目駅より徒歩で1分ほど、レンガ造りのカフェのような外観が目印。アットホーム、かつ一見さんでも気兼ねなく利用できる美容室があなたを迎えてくれる。店長の千葉正彦さんに思いを聞いた。
■サッカー少年から美容師へ
2010年のオープン以来、15年もの間、同じスタッフで営業している美容室が東京メトロの四谷三丁目駅から数分のところにある。人の入れ替わりの激しい業界にあってめったにあることではない。店長の千葉政彦さんは業務として言うべきことは言うようにしているが、スタッフの居心地の良さは来店した方の居心地の良さにつながると考えてスタッフと接している。居心地の良さは『salon de TERRE』(サロンドテール)の掲げるコンセプトの中心にある。

千葉さんは全国高校サッカー選手権大会に30回以上も出場したことのある岩手県の高校で明けても暮れてもボールを追い続けていた。プロになる夢が破れた頃、美容師の道に進む友人との再会が進路を決めた。美容師という職業に対して特段の憧れや期待があったわけではないが、反対しながらも学費を捻出してくれた両親に対する恩は強く感じていた。一人前になることで恩返ししたいと心に決め、専門学校卒業と同時に上京して新宿区にある店舗で働き始めた。その後、結婚して子育てに適した場所を求めて故郷に戻って美容師を続けたが、友人や友人のその友人の髪を切っているうちにある思いが込み上げてきた。「知り合いだから来てもらえるようでは、自分の技術は磨かれないかもしれない」。正直に思いを家族に伝え、再び東京へ向かった。
■チーム力の高さが店の魅力
知人だったオーナーに声をかけられて開店とともに店長となった。フランス語で「大地」や「土」を意味する『TERRE』と名付けられたのは「地域に根付いた地域の1番店を目指す」という思いから。美容師として技術を磨いて髪の毛を美しく仕上げるのは当然だが、人間関係をしっかり構築して客と向き合いたい。多彩なサービス業がある中、美容室の滞在時間は長い。いい時間を過ごしてもらうには、人対人の関係性が重要になる。子供の名前や孫の名前まで覚えて話し相手になることもあるし、どのスタッフとも気軽に話せる雰囲気を重視してきた。年に数十回も美容室を訪れる人は希なだけに、一回、一回の出会いにスタッフは心を砕く。「お店の安心感はチーム力の結果。この点はどのサロンにも負けないと思います」。
土地柄を反映して客の年齢層は高め。40代をコアにして70代の客も多く、最も高齢の方は101歳。家族に車いすを押されてやって来る思いに持てる技術を発揮して応える。一方、若年層の客とは店とともに年齢を重ね、子供の頃から来店している客が学生、そして社会人へと成長する姿を見てきた。リピートしてくれるのは何よりもの励みになる。

■技術をアピールするための「サービス」
1日の来店数は増減し、来店サイクルは人それぞれだが、月にのべ250人くらいを見込む。だが、年に10%ほど失客すると言われる業界だけに新規客の獲得とリピート客を増やす必要がある。SNSが普及した現在、空き時間に割引して集客という戦略も考えたが、値崩れを避けるためにやめた。
集客策の一つが美容室専売品である『COTA』の取り扱い。熱烈なファンも多い希少商品を扱うことで来店を促している。
もう一つが別料金を極力、設定しない価格。パーマやカラーで髪が痛んでいるとき、通常はプラス料金でトリートメントを施す。しかし、『TERRE』ではプラス料金をとらない。プラス料金を断られるのは気まずいし、トリートメントなしで施術して髪の毛が痛んだ状態で帰したくない。カラーでは、1色で染めてムラが生まれるのを避けるために2、3色で染めてもプラス料金は発生しない。「痛まないように、美しく仕上げるためにわれわれが選んだ手法で対価を取るのはどうも……。技術の高さを披露するツールと割り切ってサービスしています」
美容師学校に通い始めてからこれまでにはつらいこともあったが、お客がきれいになって喜んでくれれば何よりも嬉しいし、リピートしてくれればすべてが報われる。
「80歳まで美容師を続けたいし、店もあと50年営業したい。そうすると90歳か」と千葉さんは笑うが、体のメンテナンスを欠かさず、新しい技術を積極的に導入することで鏡の前に立ち続ける。

◎店舗情報
店舗名:Salon de TERRE(サロンドテール)
住所:東京都新宿区四谷3-4-8
アクセス:東京メトロ四谷三丁目駅(3番出口)より徒歩1分
営業時間:1100~1930
席数:セット面4席
定休日:火曜日
HP:https://terre.co.jp/
※「『意外性×意外性』のかき氷」に関する記事は以下より

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