フランス・パリに日本食ブームの第三波が届き、日本風と銘打つ洋菓子店が乱立するのに目もくれず、南仏で「自分の作りたいフランス菓子を作る」という信念を胸にわが道をいく日本人パティシエがいる。2017年にゴッホで有名なアルルにパティセリー(フランス菓子店)を構えて以降、着実に地元の人々の評価と愛着を勝ち取ってきた店を訪ねた。後編をお届けする。
■コロナ禍で売り上げ急増し、夫婦の二人三脚は完璧
日本人パティシエによる一味違うフランス菓子の評判は口コミで広がり、売り上げは順調に上昇線を描いた。現在は開店当時の2倍ほどで安定しているというが、途中ぐっと売り上げが伸びたのが、意外にもコロナの時期だった。
「ロックダウン中はレストランが閉まって家族が集えるのが家だけなので、家族でお菓子を楽しむため買いに来られる方がぐっと増えた。ただ従業員が感染すると困るので、その期間、厨房は正樹、販売は私の2人だけで回していました」と朋子さん。現在は、パティシエが山本さんを含めて4人、見習いが1人と、厨房はなかなかの大所帯。朋子さんが会計、従業員のシフト管理、材料の発注など経営面を一手に担い、山本パティシエはお菓子作りに専念という二人三脚が成立している。ちなみに、やはり絶品と評判のこの店のブリオッシュは、趣味が高じてパン職人になったという朋子さんのレシピで作られている。




地方都市での開業には、住民との密接な繋がりに加え、店舗の値(営業権)や家賃が、大都市より安いというメリットもあった。家賃は月額1050ユーロ(1ユーロ約164円:6月9日時点)と、アルルにあっても格安。パン屋経営の経験があり、商いにも理解がある大家さんにも恵まれた。
もっとも一番の励みは客の言葉であり、笑顔だ。「こちらの人々は、『昨日買ったあのガトー、美味しかった』と言うためにわざわざ店に立ち寄ってくれたり、電話をかけてきてくれたりするんです。買い物にくるのではなく、『あれ美味しかった、シェフに言っておいて』とそれだけ言いにくる」と朋子さんが言う横で、「直接言ってくれるのはすごくありがたい」と山本さんがほほ笑んだ。開店から10年近くたっても、「お客さんに喜んでもらえたらと願いながら、自分が美味しいと思うガトーを作り続けたい」と話す山本さんの情熱に、地元住民が打たれた何よりの証しだろう。
Text by Kayako Kimura



◎店舗情報
店舗名: pâtisserie MASAKI YAMAMOTO
住所: 37 RUE DU 4 SEPTEMBRE, ARLES
電話: (+33) 04 90 96 17 22
アクセス: 国鉄アルル駅から徒歩7分、市中心フォーラム広場から徒歩3-4分
営業時間:月、火、木、金、土/8時~18時半、日/8~13時
定休日:水
席数: 8席(基本は持ち帰り)
禁煙
インスタグラム: https://www.instagram.com/patisserie_masaki_yamamoto/?hl=en
※「メープルシロップのやさしく自然な甘みを活かしたお菓子」に関する記事は以下より
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