東京メトロ北参道駅を出て国立競技場方面に住宅街を歩くと、タイ料理店に行き当たる。決して立地がいいとは言えない土地でカジュアル路線が受ける『SOWAT』だ。創意工夫で売上を立てるオーナーにその思いを聞いた。
■低温調理で鶏肉をしっとりと
オーナーの古川雄太さんは金融業界からの脱サラ組。退職後に飲食業界に飛び込み、続いて高齢者向けの配食ビジネスを手掛けようとビルを借りた。それが現在の店が入る千駄ヶ谷のビルだ。配食業は軌道に乗らず、1年半ほどで廃業。レンタルキッチン事業へ移行したがコロナ禍に見舞われ、知人に誘われてタイ料理界に足を踏み入れた。
2020年8月のことだったが、ほどなく共同事業の相手との意見の相違が生じて同年末にはコンビを解消。従業員の雇用を守るべくテイクアウトとデリバリー形式でコロナ禍を持ちこたえ、2022年3月に改装して店内でも食事ができるようにした。そんな過程でスタイルを模索し、たどり着いた味はタイ人シェフによる本場の味ではなく、日本人が日本人の好みに合うように作るタイ料理の味。オーソドックスに見えるカオマンガイも鶏の胸肉を他店ではあまりない低温調理で仕上げている。ピリ辛ソースをまといながらもしっとりとした柔らかい味に仕上がり、人気の一品になった。
■労働時間の圧縮で満足度をアップ
古川さんによれば、タイ料理ならぬ「タイ風料理」。その微妙な違いが食べる人を選ばないカジュアルな味と評判を呼び、Google Mapsでも高評価を獲得。外国人客を呼び込む入り口にもなった。一方で8割近くを占める女性客向けに量を減らしたり、油を調節したりというやり方はしていない。ガパオライスやグリーンカレーに代表されるタイ料理は元来、油っこい料理であり、タイ料理を食べる日は女性たちにとってはカロリーを気にしない「解禁日」という読みがあるから。8席が4回転するランチが売上の軸だ。
とはいえコロナ禍中は主軸だったテイクアウトの需要もいまだ多く、イートインに続く売上をはじく。が、このテイクアウトはくせ者。オーダー数がなかなか読めないため、注文が一気に入ると従業員がキャパオーバーを起こして、オーダーミスが生じがちだからだ。「オンライン注文は5パーセントオフ」のサービスは、ミスが多い口頭などの注文をできるだけ減らすために導入した。イートインのみであれば昼時でも2人の店員で十分だが、余裕をもってランチ時には4人の従業員を配備する。日によっては手持無沙汰にもなるが、4人のうち、手の空いているスタッフは仕込みに回る体制を構築し、営業時間の前後にあった労働時間を圧縮。従業員の満足度を高めて定着率を上げ、長期で考えたときの人件費圧縮につなげている。
■繁盛うどん店から得たヒント
タイ料理の食材は仕入れ先が限られていて競争原理が働きにくい。テイクアウト用の包装経費も上がる一方で、2024年の下半期だけでもメニューの2回の値上げを余儀なくされた。古川さんは現店舗を残しつつ、新業態による2号店での現状打破を目論む。
現在頭にある新スタイルの一つは、ガパオライスやカオマンガイなどの定番料理を中心に据え、揚げ物やサラダをお客に選んでもらって定食を完成させるスタイルで、『丸亀製麺』のようなイメージだ。もう一つは、定番料理をカウンターだけの店舗で提供するもの。カジュアル化とファストフード化をさらに進めることで、エスニックというジャンルから飛び出してもっと多くの人にタイ料理を食べてもらいたい。そんな思いを2店舗目の実現につなげるつもりだ。
◎店舗情報
店名:SOWAT
住所:東京都渋谷区千駄ヶ谷3-36-2 アトラス原宿1階
アクセス:東京メトロ副都心線「北参道」駅徒歩3分/JR「千駄ヶ谷」駅徒歩7分/都営地下鉄大江戸線「国立競技場前」駅徒歩7分
営業時間:火~日、祝日、祝前日=1130~1500(料理L.O.は1430、ドリンクL.O.は1430)、1730~2130(料理L.O.は2100、ドリンクL.O.は2100)
定休日:月
HP:https://sowat.owst.jp/
※「アースフードが食べられるレストラン」に関する記事は以下より
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