オープン1年半で都内でも屈指の人気店になった秘訣は味だけではない。九州発で東京、海外にも向かうラーメン界の新トレンドの主は店舗経営に加えて「ラーメン学校」も開いて海外に店舗とノウハウを広げていた。
■独特のタレに新鮮鶏ガラスープ
西武新宿線上井草駅北口を出て北に歩くことわずか3分。一般住宅も立ち並ぶ「下石神井商店街」の中に『麺屋寿』はある。醤油がなかった室町時代から使われていた「煎り酒」と醤油を組み合わせたタレに朝引き鶏の鶏ガラスープを合わせた「煎り酒醤油(手揉み太麺)」と「吟上醤油(細麺)」が看板商品。2023年4月のオープンからまだ1年半ほどだが、「TRYラーメン大賞」新店部門の審査員賞を受賞した新進気鋭のラーメン店である。
オーナーは福岡市出身の秦哲也さん。中学卒業後に市内の和食店の門を叩いた。本来なら数年経たなければ包丁すら握らせてくれないところ、人手不足ゆえに修行して2年ほどで魚をさばくようになった。5年間、割烹、会席料理の腕を磨いた後にオーナーの知り合いの居酒屋の手伝いをしていると、突然閉店の憂き目にあう。他の料理店に移ったが、思い描いていた仕事ではなかった。そんな折りに飲食店を展開する会社が新しくラーメン店『二男坊』を出店することになり、オープニングスタッフとして関わった。23歳だった。
店は瞬く間に人気店になり、オープンして数ヶ月で、福岡ラーメン総選挙の1位を獲得する。チェーン展開で出店ラッシュとなり、秦さんは新規で出店する店に立ち上げから加わるようになった。自然と人材育成や店の運営管理など現場の責任者としての役割も担うことになり、多い時期は6店ほどの管理をこなした。
「その後は取締役にもなって会社の経営サイドにいて、どうすれば売上が上がるのか、集客できるのか、理屈がわかるようになりはじめたのが20代後半。30歳までには何かやりたいと思って、会社には何の不満もなかったんですが、29歳で独立しました」
■コロナの逆風を追い風に
独立して始めたのは個人の飲食店向けのコンサルタント。何のコネもなく半年ほどは仕事がなかったが、その間、異業種交流会に積極的に参加。徐々に仕事の依頼が来るようになった。独立3年目のこと、以前から交流のあった鹿児島のラーメン店『麺屋二郎』の代表と再会。飲食店のコンサルタントをしていることを伝えると、「海外展開を狙っているから手伝ってくれないか」と持ちかけられた。
鹿児島に移住し、店のコンサルティングや人材育成をしながら、海外に出店する機会をうかがっていた矢先に襲ったのが新型コロナのパンデミックだ。
「前の年の秋頃から、『麵屋二郎』代表と人材育成の観点から何か出来ないか話し合っていて、20年の年末にテスト的にラーメン学校を立ち上げたのです」
学校の滑り出しは上々だった。コロナ禍で夜の営業を控えなければならない居酒屋などが、昼営業ができるラーメン店に業態変更するため、依頼が増えていったのだ。21年、『麺屋二郎』は初めて米国のボストンに初進出を果たして秦さんも立ち上げに関わったが、帰国直後に心臓疾患があることが発覚して福岡市に戻った。術後の療養中も途中で終わってしまったラーメン学校が心に引っかかっていた。以前から『麵屋二郎』代表と「いずれは東京に出ていったほうがいいだろう」と話し合っていたこともあり、22年の年末に東京に進出。現在の店をオープンさせると同時に、鹿児島のラーメン学校も引き継いだ。
■海外から学校の生徒も
「学校の特徴は、価格の安さとスピードです。いくつかラーメン学校はありますが、費用は1週間で50万から60万円。うちは2日間で20万円程度。教えてもらった通りの味を再現するのはなかなか難しいのですが、うちでは独自の方法で100%再現できるレシピを提供しています」
生徒は海外にも多く、時には店を閉めて1ヶ月ほど海外に出向いて教えることもある。今年8月からは和食を教える会社とも協業した。
「来年もすでにイギリスから数人の生徒が来日することが決まっています。学校が忙しくなると店の営業がおろそかになる。そのためには自分の店の人材も育成しなければと思っています」
店と学校の二足のわらじを履く秦さんがプロデュースした味のラーメン店が世界を席巻する日も近いかもしれない。
◎店舗情報
店舗名:『麵屋 寿』
住所:東京都練馬区下石神井4丁目12-10
電話:03-6915-9308
アクセス:西武新宿線上井草駅北口から徒歩3分
営業時間:火~金/1100~1400、1800~2000&土・日・祝/1100~1500、1700~2000
定休日:月(祝日の場合は火)
席数:15席(カウンター7席、テーブル席2名掛け4席)
HP:https://www.menyakotobuki100.com/%E3%83%A1%E3%83%8B%E3%83%A5%E3%83%BC
※「元Jリーガーの鶏白湯」に関する記事は以下より
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