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フライパン1つで独自に焙煎を習得。能登の景色をイメージしたコーヒー(@石川県)


コーヒー好きが高じて自宅で焙煎を始めて、2年後に自家焙煎豆の販売をスタート。地元の人に愛される富来(とぎ)の新たな名物になる可能性を秘めた逸品の裏側とは。

■結婚を機に能登に移住

 能登半島の中央に位置する石川県羽咋(はくい)郡志賀(しか)町。日本海の荒波が削った断崖が続く海岸線「能登金剛」は代表的な景勝地で、増穂浦海岸に走る全長460.9メートルの「世界一長いベンチ」から見る日の入りは絶景だ。
 夕日の名所から徒歩5分、志賀町富来地頭町商店街近くの駐車場に『河原屋珈琲』はある。タイニーハウスを改装した小さな自家焙煎工房で、月に1~2回不定期で対面販売も行っている。コーヒーは3種類。いずれも地名の「富来」を冠しており、その1つが「とぎの海」だ。ブラジル、コロンビア、グアテマラ産の豆をブレンドし、ほのかに漂うおおらかな香りと、少し残る苦味が心地良い。
「自分が海にふらっと行ったとき飲みたいコーヒーを作りました。香りも景色の一部だと思っていて、富来の海にはこのブレンドの香りが一番合う。ちょっとの苦味でピッと目が覚めて帰ってくるイメージ」とオーナーの河原恵里香さん(49)。2014年に結婚を機に能登に移り住んだ。
「小学生の時、祖母と一緒に銭湯に行ったとき、風呂上りに飲むコーヒー牛乳が特別で、それからコーヒーが好きになりました。金沢市内にある短大に通っていたのですが、その頃からアルバイトでお金を貯めて、時間を見つけてはコーヒーショップを巡って豆を買って、毎朝自分で挽いてドリップして飲んでいました」

▲月1~2回、工房で購入することもできる。ロゴはオリーブをくわえたツバメ。実家の雑貨店名「オリーブ」、富来の家にあるツバメの巣から着想を得た

■コロナ禍に独学で焙煎

 飲むだけのコーヒーからの転機は2020年。新型コロナウイルスの影響でコーヒー店巡りをすることができなくなり、「だったら、自分で焙煎してみよう」と思い立った。動画や本を参考にして、生豆をネットで購入し、ゴマ煎りフライパンを使い自宅のコンロで見様見真似でやってみた。
 最初は当然うまくいかなかったが、回を重ねるごとに生豆が味わい深くなることに感動し、「こんなことが家でできるんだ」と焙煎にのめり込んだ。週2~3日介護の仕事をこなしながら、フライパンをゆすり続けて腱鞘炎になったため、今は4~5万円で購入した小さな手回しの焙煎機を使用している。
「いろんなところでコーヒーを飲み続けてきたので、技術はなくても美味しいコーヒーはわかるはずだ、という自信がなんとなくあったんです。ほかのコーヒー店に飲みに行ったら真似をしてしまうと思ったので、この期間は行くのをやめて、自分が焙煎したものをひたすら飲んで、自分の感覚を頼りに“美味しさ”を探しました」

▲コーヒーで作った石鹸や、門前の海岸に流れ着いたシーグラスを使用したアクセサリーも販売。河原さんの手づくり

■ギフト需要で売上増

 現在、通販をはじめ、夫の実家が代々営む日用雑貨店の店頭や道の駅、イベントで販売している。「とぎの海」のほかに「とぎの街」「とぎの杜」と、地元の景色をイメージした3種のコーヒーをまとめたギフト商品も人気だ。客から「法事のお返しに、いつもの和菓子とは違うものにしたいからギフトにできないか」と依頼があった。それから店頭にPOPを出したところ、お中元、お歳暮、ノベルティなどの注文が増え、ギフト効果で売上が前年から3割伸びた。
「特に、商売をしているかたは地元の物を贈りたいと思ってくださるようで、コーヒーは手頃でちょうどいいんでしょうね。この前、年配のかたから“箱がコンパクト過ぎる”とご要望があったので、大きいサイズに変更しました」

▲ブレンドコーヒーは、とぎの街、とぎの海、とぎの杜(写真)の3種。とぎの杜は地元の高瀬宮をイメージ、大好きなペルーとグアテマラ等の豆をブレンドし、苦味からスタートし最後に甘味が残る


 年間売上の比率は通販と店頭が各2割、道の駅とイベントが各3割だが、ことし1月に発生した能登半島地震の影響で道の駅やイベントでの売上が減収することも見越し、今後は通販にも力を入れていきたいという。河原さんは以前、同じ石川県の内灘町にある実家で、家族とともに雑貨店『オリーブ』を開業した。当時、サイトの制作や管理を業者に委託したが、費用が嵩むばかりで売上につながらなかった苦い経験がある。
「SEO対策が全てと言われたのですが、“オリーブ”、“内灘町”、“雑貨店”で検索する人はそれほどいないわけですよね。私たちも任せきりにしてしまい勉強不足でした。いまは夫がHPを制作し、私はインスタやブログなどのSNSを駆使して極力発信しています」
 今後の目標はカフェ作りだ。焙煎工房の隣に、山の上の小学校から移築した講堂があり、以前からここを改装してカフェにしたいという構想があった。しかし、先の震災で建物の基礎がずれてしまった。
「どこか別の場所で実現するにしても数年はかかるだろうけれど、いつかいろんな人が集まれる場所、若い人が戻って来て働ける場所を作りたい」

▲ベンチに座り、富来の海を眺めながら、ブレンド「とぎの海」を味わいたい

▲タイニーハウスを改装した自家焙煎工房。オーナーの河原さん

◎店舗情報
店舗名:河原屋珈琲
住所:石川県羽咋郡志賀町富来高田3-2-1
営業日:自家焙煎工房のため店頭販売は月1~2回不定期営業、通販
HP(通販):https://www.kawaraya-coffee.com/
インスタグラム:https://www.instagram.com/kawaraya_coffee/
※最初と最後の写真2点の撮影:SHU.OGAWA

※「名水の里・白州で1棟貸しのコテージ」に関する記事は以下より

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