食材だけでなく、手作り麺にこだわったイタリアンは珍しくないが、この店の売り物は、過剰なサービスをしない自然な雰囲気。その思いの裏には樹齢100年を超える樹木の存在があった。
■事務所を改装して自分好みの城へ
1日に約30万が利用する四ツ谷駅から歩いてすぐといえば、絶好の駅チカ物件だが、『イル ベッキオ プラタノ』はビルの2階にある。開店から数年が過ぎても、通勤で前を通っているお客さんに「いつできたの?」と言われたりもした。
店舗での修行やイタリアでの食べ歩きに20代、30代をあて、2007年に40代で物件を探していたオーナーシェフの北澤康夫さんがこの店を選んだ決め手は、まさにその2階という立地。晴れた日には南イタリアを思わせる素晴らしい採光が望めたからだ。
事務所向けの物件だったが、飲食店を開く許可を得た。厨房と席の位置や数に細かくこだわり、お客さんの食べるペースや雰囲気を見ながら料理の腕を振るえるように改装した。
居心地がよく、笑顔が自然とあふれるお店にしたかったので、過剰なサービスはしないのがポリシーだ。
店名のプラタノはイタリア語でプラタナスの意。店舗から数分の迎賓館赤坂離宮の近くにある巨木からつけた。
■「手作り」を提供するのが当たり前
実家は鮨屋でもとから料理好きの北澤さんだが、仕事としての鮨には惹かれずイタリアンを選んだ。とはいえ、そのベースにあるのは父親譲りの食材と手作りへのこだわり。「飲食店である以上、手作りは当たり前」という考えから、パスタは開店当初、こだわりの手打ち麺だけを並べたが、回転の良さが条件になるランチタイムでは現実的ではない。限られた時間、限られた湯釜でお客さんのニーズを満たすために乾麺も取り入れた。
手打ちに合うソース、ツルッとした乾麺に合うソースと丹念に仕込み、お客さんが希望する麺に合うようにソースを微調整して皿に盛る。ただ、あくまで売り物はもちもちの手打ち麺。ランチの売り物であるラザニアにも手打ちパスタを使う。ラザニアは原価割れ覚悟の1200円で、4食限定。「好みは人それぞれですが、食べ慣れた乾麺にはない手打ちパスタの美味しさを感じるまで、食べ続けてみてほしいとは思いますね」
■同年代と向き合うシニア向けの店に
コロナ禍などの困難も乗り越えて20年近く店を守ってきたが、還暦を迎える今、これからは体力との相談だ。手打ちにこだわり、「自分で作ってなんぼの店」だからこそ、店舗を縮小すべき時が訪れるかもしれないと考えるという。今の店を閉じたならば、同年代のお客さんたちと向き合い、手作りの食事を明るく、気軽に楽しめる場所を作りたいという思いもある。描くのは温かく自然に歳を重ねてきたシニア世代のお客さんが本当の意味でくつろげるような店だ。
店名の由来となった店近くのプラタナスは植栽された明治か大正時代からずっと、道行く人々に憩いを与え続けている。店の目指す姿がそこにある。
◎店舗情報
店名:イル ベッキオ プラタノ
住所:東京都新宿区四谷1-11-19 悠スタンザ 2F
アクセス:四ツ谷駅から190m
営業時間:月・火・水・木・金・土/1130~1400&1730~2130
定休日:日
席数:16席
SNS:https://www.facebook.com/ilvecchioplatano/?locale=ja_JP(facebook)
※「8坪15席の『ほほ笑みの国』」に関する記事は以下より
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