コラム

【不動産豆知識⑩】残置物であるエアコンが故障した時の対処方法をケース・スタディで学ぼう(後編)


店舗を開業する上で欠かせないのがテナントの確保であり、不動産に関する知識。この連載では、不動産業界で長く活躍するSAWASANが基本知識を紹介する。

■「本来は貸主が負担すべきものである」という主張は正しいが…

 今回は、「実際のケースを取り上げて残置物に関する理解をさらに深めていきましょう」の後編です。
おさらいしたい方は「不動産豆知識⑨」をご覧ください。

 論点だけ紹介すると以下のようになります。

⑴ エアコンは、貸主が建物と一体で貸し付けたものであるから、その修理義務は、本来は貸主が負担すべきものである。
⑵ 媒介業者は、この残置エアコンは貸主の所有物ではないので、本来賃貸借契約の対象にはならないと言っているが、所有権の有無に関係なく、賃貸借の対象になる。
⑶ そもそも当事者間においては、エアコンの修理義務を定めた特約はなく、あるのは単に媒介業者が重要事項として一方的に借主に説明したものだけであるから、その説明内容を契約内容とするのはおかしい。

残置物エアコンの故障に対する修理義務の所在

 皆さんはどのように思いますか?
 結論は以下のようになります。

1. 結 論
⑴ 質問1.について:一般論としての「本来は貸主が負担すべきものである」という借主の主張は正しいが、本件の事案においては、正しくない。
⑵ 質問2.について:借主の主張は正しい。本件のエアコンについては、所有権の有無に関係なく、賃貸借の対象になる。
⑶ 質問3.について:借主の主張は正しくない。本件での重要事項説明の内容は、契約内容になっていると解すべきである。

残置物エアコンの故障に対する修理義務の所在


 このような結論になった理由を紹介します。

2. 理 由
⑴について
 建物賃貸借契約における建物の修繕義務は、原則として貸主にある(民法第606条)。そして、エアコンも建物と一体で貸し付けたという借主の主張もそのとおりである。したがって、その限りにおいては、今回の借主が主張する、修繕義務は「本来は貸主が負担すべきものである」という主張は正しいといえる。
 しかし、本件の事案においては、媒介業者がその重要事項説明において、「修繕義務は借主が負担する」旨の説明をしており、その説明の内容は媒介業者が貸主の意思を伝達し、借主がこれに応諾したものと考えることができるので、本件の事案における回答としては、その点において正しいとはいえない。
⑵について
 一般に「残置物」といわれている物は、従前の借主がその所有権を放棄したものであるから、それを占有している貸主がその物を次の借主に使わせる(処分する)ということは、貸主がその物の所有権を取得しているものと考えることができるので(民法第239条)、その意味で、媒介業者が言っている「エアコンは貸主の所有物ではない」という考え方は間違いであり、所有権の有無に関係なく(他人の物であっても)、賃貸借の対象になるという借主の主張は正しいといえる(民法第559条、第560条、後記【参照判例】参照)。
⑶について
 上記理由⑴で述べたとおり、本件の事案における媒介業者の重要事項説明の内容は、媒介業者が貸主の「使者(注)」として、貸主の意思を伝達したものと考えられるので、その伝達内容(重要事項説明の内容)を受領した借主は、その修繕義務についての貸主の「申込み」を「承諾」したことになり、契約(特約)が成立したことになるからである(民法第526条第1項)。
(注) 「使者」とは、本人の代理人ではなく、本人の「補助者」であって、単に書類を届けたり、言われたことを伝えるだけの行為をする者のことである。したがって、媒介業者も代理人ではないので、本件の借主の主張などの事実関係を見る限り、本件の媒介業者は貸主の「使者」として貸主の意思を伝達したものと解することができる。
 ただ、本来は「取引条件」について重要事項説明をする場合には、事前に当事者が合意した内容を重要事項として再度説明し確認するという方法をとることが望ましく、本件のような説明の仕方は、時間的・内容的にやむを得ない場合に限られるべきである。

残置物エアコンの故障に対する修理義務の所在

 いかがですか? 一読して理解できる内容ではないかもしれません。しかし、こうしたトラブルにいつ巻き込まれるか分からないのも事実。毛嫌いしないで知識を得ておくのも重要だと思います。

参照条文
○ 民法第606条(賃貸物の修繕等)
① 賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。
② (略)
○ 民法第239条(無主物の帰属)
① 所有者のない動産は、所有の意思をもって占有することによって、その所有権を取得する。
② (略)
○ 民法第559条(有償契約への準用)
この節(売買)の規定は、売買以外の有償契約について準用する。ただし、その有償契約の性質がこれを許さないときは、この限りでない。
○ 民法第560条(他人の権利の売買における売主の義務)
他人の権利を売買の目的としたときは、売主は、その権利を取得して買主に移転する義務を負う。
参照判例
○ 東京高判昭和39年7月9日下民集15巻7号1731頁(要旨)
他人の物を賃貸したが、借主をして所有者との関係で適法に使用収益できる権原を取得させることができなかった場合には、貸主は、法第559条によって賃貸借契約に準用される本条および法第563条の規定によって賃借人に対して担保責任を負う。これに基づく賃借人の解除は法第620条の規定に従い、遡及的効果を有するものではない。

残置物エアコンの故障に対する修理義務の所在

◆著者の取得資格◆
国土交通大臣、登録証明事業(3)第28034号、不動産コンサルティングマスター、相続対策専門士、宅地建物取引士(埼玉)第045713号、FPファイナンシャルプランナー第30220347号、賃貸不動産経営管理士(2)第020666号

※SAWASANの連載9回目コラムは以下より

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