店舗を開業する上で欠かせないのがテナントの確保であり、不動産に関する知識。この連載では、不動産業界で長く活躍するSAWASANが基本知識を紹介する。
■借主に対する説明はしていた
連載の7回と8回では残置物に関して解説してきました。今回は、実際のケースを取り上げて残置物に関する理解をさらに深めていきましょう。まずは、論点は以下のようになります。
従前の借主が取り付けたエアコン(いわゆる「残置物」)付の建物賃貸借契約を締結したが、入居半年後にエアコンが故障した。「エアコンの修理義務は借主が負う」という重要事項説明はしたが、賃貸借契約書には何の特約も定めなかった。このような場合、その修理義務は誰が負うことになるのか。重要事項説明の内容は契約内容といえるのか。
残置物エアコンの故障に対する修理義務の所在
建物賃貸契約を媒介した会社は以下のように説明しました。
当社はこのたび建物賃貸借契約の媒介をしたが、その際重要事項説明書に、「現在室内に取り付けられているエアコンは、従前の借主が所有権を放棄したいわゆる『残置物』につき、その修理は借主が行うものとする。」と記載し、借主にその旨の説明をした。ところが、入居半年後になってエアコンが故障したため、トラブルになった。 なお、その残置エアコンの修理義務については、賃貸借契約書にはなんらの定めもしていないが、重要事項説明書の説明受領欄には、借主が説明を受けた旨の署名押印がなされている。
残置物エアコンの故障に対する修理義務の所在

さて、次のような主張は正しいのでしょうか?
⑴ エアコンは、貸主が建物と一体で貸し付けたものであるから、その修理義務は、本来は貸主が負担すべきものである。
⑵ 媒介業者は、この残置エアコンは貸主の所有物ではないので、本来賃貸借契約の対象にはならないと言っているが、所有権の有無に関係なく、賃貸借の対象になる。
⑶ そもそも当事者間においては、エアコンの修理義務を定めた特約はなく、あるのは単に媒介業者が重要事項として一方的に借主に説明したものだけであるから、その説明内容を契約内容とするのはおかしい。
読者の皆さんはどのようにお考えになりますか? トラブルに巻き込まれた場合の対処方法を身につけると思いながらシミュレーションしてみてください。次回、結末を紹介します。
◆著者の取得資格◆
国土交通大臣、登録証明事業(3)第28034号、不動産コンサルティングマスター、相続対策専門士、宅地建物取引士(埼玉)第045713号、FPファイナンシャルプランナー第30220347号、賃貸不動産経営管理士(2)第020666号

※SAWASANの連載8回目コラムは以下より
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