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荒木町にはためく「氷」。お客の心をつかんだ「意外性×意外性」のかき氷


かつて花街として栄え、現在も多くの飲食店が居を構える新宿区の荒木町。雰囲気のある狭い路地や昭和を感じさせる店構えも多く、「夜の町」というイメージが強い。そんな中、異色を放つのがかき氷を提供する『ライアン』だ。昼間から人々が集まり、休日ともなれば「荒木町ではあまり見かけない若い女性」も列を成す。今回はライアンを訪れ、運営主体であるありささんとみくさん姉妹に話を聞いた。

🔳スーツ姿の背中が並ぶカウンター席

 ライアンの営業形態はちょっとユニークだ。夜はスナックとなる店舗を昼間だけ間借りし、午前11時から営業を開始して17時には完全閉店。営業日は、週末と祝日、そして不定期な2、3日のウイークデー(月ごとの営業予定を事前に告知)が基本となっている。こうした営業形態になったのは偶然と必然の結果だった。

▲『ライアン』の昼の顔

▲『ライアン』の夜の顔。荒木町にはノスタルジーが漂う

 時計の針を営業開始した12年前に戻そう。

 スナックの経営者は姉妹の親戚だった。当時、学生だったありささんが親戚から「まったく稼働していない昼間を活用しない?」と言われ、「まず夏休みだけやろう」と割と軽い気持ちでありささんが1人でスタートさせた。
「『よし、やるぞ!』という感じではありませんでした。宣伝もしませんでしたし、夏の晴れた日だけ営業していた感じ。暇をつぶしながらお客さんを待ち、時間がゆっくり流れる昼間の荒木町そのものでした」

 このようにありささんは回想するが、ある閃きがあった。
「『なぜ、かき氷なの?』とよく聞かれるのですが、荒木町の景色の中に『かき氷』の吊り下げ旗があったらいいんじゃないかな、と思いついたのです。すぐに、かき氷の機械を買っていました」
 当初はゆったりと過ごしていたが、あることを境に風向きが一変する。現在も一番人気の『いちじくチーズはちみつ』を2015年頃に売り出すとブログなどで話題となって急速に忙しくなっていき、妹のみくさんが加わった。

▲一度は味わってほしい『いちじくチーズはちみつ』(Lサイズ)

「かき氷=若い女性」とイメージする方も多いだろうが、ライアンの客層は必ずしもそうではない。特に夏以外の平日になると、店内の様相は予想とかなり異なる。
「夏の間は混雑して並ぶこともあるからか減りますが、ウチは男性客が多いと感じています。時には、1人でやって来たスーツ姿の男性たちがカウンター席を占めることもあります。スナックも兼ねている内装の影響かもしれません」(ありささん)
「土日を除けば、落ち着いたお客さんが多い。30歳や40歳の女性もよくいらっしゃいますし、平日は1人のお客さんが多いです」(みくさん)

 潜在的な需要の掘り起こしに成功しているのかもしれない。2人の嗜好がそういう客層を呼び込んでいるかもしれない。いずれにせよ、可愛さを軽視しているわけではないが、『映え』を意識してはいないそうだ。2人の好みは町ともマッチしている。

 みくさんは言う。
「他がやっていない商品、名前では味が想像つかない商品が好きかもしれません。苺ミルクは食べなくても味が想像できますが、そうではないものを提供したい。いちじくチーズはちみつみたいに『どんな味だろう?』と想像を掻き立てるようなものを作るのが楽しい」
 ありささんが付け加える。
「いちじくはチーズやクラッカーと合わせてお酒のおつまみとして出されたりしますよね。お店の雰囲気にも合っていると思います」

 お客も負けてはいない。
 2種類のシロップを選べる『相掛け』を注文する方の中には「それとそれ?」と2人を驚かせる人も少なくないそうだ。

▲上段左から『まっくろごまコーヒークリーム』(Lサイズ)、ブルーベリーチーズタルトと酒粕ティラミスの相掛け。下段左から『かぼちゃグラタン』(Lサイズ)、ブルーベリーチーズタルトとマンゴーヨーグルココの相掛け

🔳かき氷の美味しさを楽しめるのは冬⁉

 機会損失を考え、「営業日数を増やしてもいいように思えます」と門外漢が何気なく聞くと、みくさんに笑顔で諭された。
「遊んでいるように思われているかもしれませんが(笑)、営業日以外は仕込み。休みはありませんし、寝る時間を確保するのさえ大変です。ウチのシロップはすべて手作りであるため、1種類作るのに数時間を要しますし、しかも大量に用意しなければなりません。『8月は営業しすぎたね』と話し合ったばっかりです」
「日々、戦です」とありささんも同調した。

 それでも12年の月日を通じて2人はノウハウを身に付け、さいたま市(埼玉県)に2号店を開業し、四ツ谷店は冬も営業できるようになっている。

 氷に関する話を聞くだけでも、感心させられることは多い。
「地元の製氷店から運んでもらっていますが、いつも感じが違う。天気によっても氷の状態が大きく変わります」とありささんが言えば、「四ツ谷店で使っている氷と埼玉店の氷ではやはり違います」とみくさんも頷いた。氷に合わせて機械の歯を変えたり、削り方を変えたりして「フワフワしながらも氷を食べてほしい。でもジャリジャリしてほしくはない」という状態をコンスタントに出せるようになった。

▲『黒蜜きなこ金時といちごの相掛け』

 最も意外だったのは「かき氷を冬に食べてほしい」という2人の共通認識。好みはありますし、正解はないと思いますと前置きしつつも、「冬のかき氷は美味しい」のだ。氷が溶けにくいため、いろいろと工夫をこらしたシロップも使える。

 とは言え、冬である。店内のエアコンは冷房ではなく暖房を表示。かき氷を食べるお客さんが寒くならないように温度は高めに設定され、「私は半そで半ズボンで汗をかいて働いていますよ」とみくさんは微笑む。一方、体内から冷えるお客さんは懐炉を用意したり、ダウンをまとったりしてかき氷を頬張る……。なんとも楽しそうな空間だ。

▲「どんな味?」と思わせるラインナップが並ぶメニュー


 楽しい時間ばかりだったわけではない。
塩麹ずんだミルク』を売り出した時には悔し涙に暮れた。「分かっていない」などと言われたりもした。批評を浴びながらも自分たちの好みを信じて提供し続けた結果、今ではトップクラスの人気メニューとなっている。

 こうした経験は店舗の羅針盤となった。奇をてらい続けているわけでは決していないが、誰かの好みを追いかけすぎると自分たちの目指しているものが分からなくなる。かき氷店を切り盛りする姉妹は絶妙なバランスを取りながら氷を削り続ける。

「まだ見ぬ一杯に出会いたい」
 目指す方向は同じだ。

▲人気店を支えるスタッフの方々

◎店舗情報
店舗名:ライアン
住所:東京都新宿区荒木町7 野崎ビル 1F
最寄り駅:四谷三丁目駅(東京メトロ)、曙橋(都営新宿線)
営業時間:1100~1700(予定)
休日:不定期(SNSに予定を掲載)
席数:12席(カウンター/6席、テーブル2卓/4席)
禁煙・喫煙:全席禁煙
SNS: https://www.instagram.com/ryan_kakigori/?ref=COUPONFB88https://twitter.com/arakicho_kori

※話題の『10円パン』の記事は以下より

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