店舗訪問

【店舗訪問 『肴や』(大阪・天満)】豪州とスペインが「角打ち」で融合した老舗が「さっと飲み客」を迎えるメニューの裏側


JR大阪駅から環状線で一駅の天満。南北に2・6キロ伸びる天神橋筋商店街に入る手前の駅前路地にカウンター中心の店はある。メニュー表には魅力的な小皿料理の数々が。立ち飲みブームの前史から、帰宅前の労働者ののどを潤していた繁盛店の現在。

■平均滞在時間は30分たらず

「つ」の字型のカウンターにすっと立った客が、1,2杯のショットとともに小皿に盛られた肴をつまみ、30分たらずで去っていく。大阪でも有数の活気を持つ天満にある『肴や』の流儀だ。「客単価は1,500円くらいからせいぜい2,000円台。うちのお客は長居をしないの」とオーナーの西山晃生さん(59)。開業は阪神淡路大震災が起きた1995年。10月で30年と歴史は長い。酒屋の角打ちが源流を持ち、いまではすっかり業態として定着した「立ち飲み店」のはしりだ。
 現在の店から400メートルほど離れた、4坪ほどの小さな店が前身。20代の西山さんはワーキングホリデーで出かけたオーストラリア(豪州)でパブ文化に触れ、ビールを気軽に飲める店を日本でもできないかと考えた。日本にも酒屋の一角で缶詰や乾き物でのどを潤す「角打ち」というスタイルがあったが、突き出し感覚で小鉢を添えるやり方が受けた。西山さんの夫人、直子さんによれば、当時の客層は近隣の工場に勤める労働者が中心。「7時には家に帰って用意された晩ごはんを食べるから、それまでのつなぎで軽いもののほうがよかったのよ」

▲カウンターの向こうから数々の小鉢が出てくる

■スペインのバルを参考に

 20人も入れない店はぎゅうぎゅうの状態になるほど流行った。現在の店舗が空いて移転すると、スペイン人のアルバイトからタパス(小皿)をカジュアルに楽しむスペインの居酒屋バルの存在を知り、実際に現地で体験して豊富なメニューを揃えた。
 現在も店主含め3人でまわす厨房から供される献立は多彩そのもの。西山さんの実家がもとは老舗の料亭に海産物を卸す問屋で、新鮮な魚が手に入る。それが破格の値付けでお造りの盛り合わせを出せる秘密。握り鮨にもでき、たとえば鯛ならばお造りが500円、握りが二貫で250円というぐあい。
 府内でも珍しいギネスの生ビールに合わせるには特製の『いか玉スペイン風(460円)』がおすすめというが、『八宝菜(300円)』などの中華から『魚のグラタン(440円)』、『スープカレー(同)』など、メニューに50種類以上並ぶ日本版タパスは、気分しだいでほかにいくらでも選べる。「毎日、工夫しながら変えている」という作業が西山さんにとっての楽しみであり、張り合いだ。

▲お造りの盛り合わせ(820円:上写真)といか玉スペイン風(下写真)

■〆のジェラートも好評

 天満地区は近年、新しい店が増え、地域住民以外に食べ歩き、飲み歩きをする若い層も多い。基本は「さっと飲み」なのは変わらず、「15分で一杯飲んで次の店にいけばいいし、はしごは街にとっても歓迎」と西山さんはいうが、幅広い客層に応える配慮も欠かさない。腰を落ち着かせたい人は突き出し280円を頼めばそれが席料になり、6席あるテーブルに着ける。団体向けには2階席もあり、予約をすれば鍋を囲んでの宴会も可能。3階にはカラオケ席も備える。
 コロナ禍をきっかけに〆向けのジェラートも備え、女性客に好評だ。開業から30年、時代や環境によって細かい進化をしてきたが、基本は充実した小鉢の数々。メニューに目を落とせば品数に圧倒されて注文にとまどうが、同時に「明日もくればいいか」と思わせる。「肴や」を名乗るのも合点がいく、中毒性の強い店だ。

▲和牛のピーマン炒め(380円)、鉄火巻(550円)、ジェラートも

◎店舗情報
店舗名:肴や
住所:大阪市北区天神橋4-11-20
電話:06-6356-1900
アクセス:JR大阪環状線天満駅から2分
営業時間:月~金=15時~22時30分、土・日・祝=14時~21時30分
定休日:不定休
席数:17(カウンター、テーブル)、2階に16席
インスタグラム:tenma_sakanaya

※「京都のワンオペ老舗料理店」に関する記事は以下より

コメント

この記事へのトラックバックはありません。

RELATED

PAGE TOP