カフェと飛行機。意外な取り合わせを売り物にするユニークな店が福岡にある。立地にこだわり、試行錯誤で人気商品を追求した女性オーナーの仕事と趣味がインスタで広がり、オーダーと人を呼ぶ好循環だ。
航路下の立地にこだわり
午後3時のオープン直後、ひと組の親子が入ってきた。父親の足に幼稚園生ぐらいの男の子が照れくさそうにしがみついていたが、店主の中村美奈子さんがいちごのホールケーキを差し出すと、男の子の笑顔が弾けた。直径12cmのオーダーメードの商品で、材料次第で価格は変わるが、4500円前後。「多い時で月に5つほど注文があります。うちの主力商品と言っても過言ではないですね」
カフェバー『375』がオープンしたのは2018年5月。店名は名前の「みなこ」に由来する。中村さんは高校の食物調理科を出た後に専門学校で製菓や製パンを学び、就職先は飲食関連の会社と、一貫して飲食に関わってきた。
「会社のカフェ部門で働き始めて、カフェ巡りが趣味となった20代の後半のある日、友達から譲ってもらった自転車でふらっと福岡空港の近くに行ったんです。空港のすぐ近くで飛行機を見ることができるスポットがあるんですが、鉄の巨体が飛び立つ様を間近に見て、その非日常的な存在に圧倒されて、それ以来飛行機にハマってしまったんです」
大好きなカフェと飛行機という2つが融合した店はないかと探したが見つからない。飛行機をテーマにしたカフェを自らの手で作ろうと思った。33歳のときだ。
空港付近で空き店舗を探したが、いい物件が見つからない。次に探したのが「飛行機の航路上」。飛行機が店の上を飛んでいれば、いつでも身近に感じられるからだ。不動産屋さんは、この条件に頭を抱えたという。
ラテアートとオーダーケーキ
そんな時、知り合いから現在の店を構えている場所が空くことを聞いた。希望通り航路の上にある。居抜き料は500万円だったが、値引き交渉や知り合いの尽力によって250万円にまで下がったため、出店を決意した。
出店する1年半ほど前から、近くのカフェで働いていたこともあり、オープンするとすぐに顔見知りのお客さんが店に来てくれた。経営の目安の1日2万円の売上をキープした。
当初の売り物はカフェラテで、ラテアートが好評だった。学生時代のころから美術はずっと「5」と得意科目で、それが生きた。季節に合わせたスイーツやパフェも人気になった。
さらに売上アップにつながったのは知り合いの画家の個展だ。個展をすると、その画家の紹介で個展のオーダーが入る循環で、売上は1.5倍ほどになる。多い時で月に2回ほど開催した。
そこに2020年のコロナ禍が襲った。力を入れたのが、インスタグラムにアップすると注文が増えていたオーダーケーキだ。専門学校時代にケーキの勉強はしていたものの、本格的なケーキ作りはほとんど経験がなかった。どの材料を使えば思ったような色が出るのか、組み合わせた食材が調和するか、口当たりは大丈夫かなど、試行錯誤の連続だったが、インスタを見たお客さんからダイレクトメッセージで注文が来るようにもなった。ケーキ作りは、金銭的にも精神的にも店の支えになった。
マイル修行で東京からも
並行して、飛行機好きとしての投稿をしていたインスタの効果で、マニアのお客さんも全国から集まるようになった。マイレージを貯めるためだけに飛行機を利用する「マイル修行」で、毎週のように東京から来るお客さんもいる。
飛行機好きのお客さんが増えたため、飛行機関連のグッズや絵を全部片付ける必要がある個展は一旦中止しているが、つきあいのある飲食店とのコラボも企画。知り合いのうどん屋やサンドイッチ屋、カレー屋に商品を提供してもらうイベントを不定期に行っている。イベントを開催すると個展同様、売上は1.5倍に。互いの店を知ってもらえるいい機会にもなるし、売上も伸びる。
「今のままで十分楽しいけれど、店のロゴが入った飛行機が飛んだらさらに楽しいだろうなと思っています」
飛行機雲の真下には、オーダーケーキに破顔するお客さんが今日も集まっている。
◎店舗情報
店名:375
住所:810-0013
福岡県福岡市中央区大宮2丁目1-31ユーテラス101号
電話:050-1163-3711
https://www.instagram.com/375.sng.cafe/
営業時間:月、水、木、金、土曜日/1500〜2400(LO.2300位)
日曜日/1300〜1800(LO.1700位)
定休日:火曜日と月1水曜日
※「直火式焙煎コーヒー店」に関する記事は以下より
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