古くからの飲食店が軒を連ねる荒木町にあって、開店1年足らずで予約の取りにくい人気店に成長したのが、『殊ノ外』。一風変わった店名に、個性的なメニューで独自の店作りに出たオーナー店長の狙いが透ける。
■リブランディングで得た学び
細く薄暗い路地に明るい照明が灯り、店内から楽しそうな声が漏れてくる。創作料理が評判を呼び、要予約の人気店となった『殊ノ外』。飲食店の繁盛度合いを示す指標の一つである坪売上はディナーの営業だけで60万円となっており、平均の1.5倍から2倍というから驚きだ。
店を取り仕切る佐藤悠伎さん(33歳)は大手居酒屋チェーンの出身。店長、マネジャー、事業部長などを経験し、2010年代には全体売上が58カ月連続で前年を下回る中、リブランディングを担当し、前年比120%へと導いたこともある。その過程で学んだのは商品開発の重要性だ。話題商品を送り出すことに注力している本社の商品開発部は、店舗のオペレーション負担を軽視しがちだった。本社部署と店舗の意識が一枚岩になるように変革すると店舗は強みを取り戻し、看板メニューである地鶏の注文指数が伸び、リピーター客も増えた。


■意外性に富んだ料理で魅了
チェーン店を退職して飲食店のコンサルタントとして活動していた2023年、知人から掘り出し物として現店舗を案内された。強い開業意欲があったわけではないが、魅力的な店構えと契約内容にイメージがふくらんだ。ダメ元で高競争に札を入れると審査を通過。契約期限まで3日という状況で資金をかき集めて船出した。が、そこはブランドの確立された大手チェーンと勝手が違う。客が1人も来ない日もざらだった。
転機は24年8月の業態変更だ。意外な食材を組み合わせて他にはない斬新な取り合わせのメニューを提供するという思いを新店舗の名前に込めた。他店との違いを明確に打ち出すという方針は一度決めると譲らなかった。『シャインマスカットの生ハム包み』『三陸わかめのサク揚げ』『蛤とホタテ出汁の鶏アサリ』など、他店では食べられそうにないメニューが並ぶ。
新鮮鶏の白レバー刺しや京紅地鶏の炭たたきなど、地鶏料理も人気だ。普通の鶏より2、3倍も高価な材料を活かし切りつつ、見栄えもいい『鶏タク月見タルタル』や『炭焼き地鶏の親子丼』といったメニューを開発。「口コミしやすい状態が大切」と佐藤さん。意外性に富んだ美味しい料理は人を誘うきっかけになり、実際に美味しいと言ってもらえれば誘った側も「でしょう!!」と、会話も弾む。


■スタッフドリンクの価値
ディープな大人の街にあって、外からでも活気が感じられるように窓にあった障子や格子を外し、短めの暖簾にすることで中が見やすいようにした。14席しかない店舗は客との距離が近く、重視するのは一体感。メニューにある『スタッフドリンク』は、従業員への「おごり」を明文化したもの。価格660円の半分がスタッフの売上になる。変にかしこまらずにスタッフにドリンクをおごることで、距離を縮めようという狙いだ。「店の雰囲気が良くなければスタッフドリンクは出ないので、お客さんの満足度の指標にもなります」
目指すのは、どこにでもあるような店舗ではなく、「自分のお店」と感じながら来店できる店舗。開店1周年を迎える頃には、リピート客を招待する特別営業も計画している。
荒木町で「でしょう!!」という声が聞こえたら、『殊ノ外』からかもしれない。

◎店舗情報
店舗名:殊ノ外
住所:東京都新宿区荒木町7 三番館ビル 1F
電話:050-5600-9905
アクセス:丸の内線 四ツ谷三丁目駅 徒歩4分
営業時間:17:00~23:00
定休日:なし(お盆や年末年始に臨時休業の場合あり)
SNS:https://www.instagram.com/kotonohoka_0903/
※「青森の直送素材と酒にこだわる店」に関する記事は以下より
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