京阪本線と叡山電鉄の始発、出町柳（でまちやなぎ）駅を出て今出川通（いまでがわどおり）を東へ数分。重要文化財でもある西園寺公望の旧邸・清風荘のやや手前を北に上がると、注目を集めている菓子店「京都メープルワールド」の看板が見えた。店内は明るく、可愛らしいパッケージの商品が整然と並んでいる。
■素材の味を生かした商品づくり
開業して５年。こちらでは店名のとおり、メープルシロップのやさしく自然な甘みを活かしたお菓子作りを行っており、最近は食の志向やアレルギーの有無にかかわらず食べられる、チョコレートやナッツが人気だ。店内は温かみを感じられる内装で、商品はどれも写真映えしそうな見た目だが、店を経営する高須繁美さんは「優先するのは中身」と言い切る。
2020年に「京都グラノーラ工房」という屋号で、オリジナルグラノーラの販売を開始した当時は、自宅に作った工房で商品を作り、マルシェやポップアップストアで販売した。その当時から製造過程で最も重視したのは「除菌」だ。工房の設計で製造スペースの清掃のしやすさや、除菌しやすい排水溝設計などを優先した背景には、生まれ育った環境と高校卒業後に働いた経験がある。
京都では伝説の居酒屋「伏見」の料理人を祖父に持ち、調理師が多い一家に生まれた。高校卒業後に資格を取得して勤務した病院で、多いときは一度に400人分の食事作りを任されていた。病院で大量調理を担当した経験が衛生意識を強めた。現在も店舗の内装やパッケージは大切にするが、華美なものは求めない。製品の製造に当たっては衛生的で、素材を活かし、過剰な味つけをしないことを旨としている。
■調理師として働きながら、副業として販売を開始
開業時、商品としてグラノーラを選んだのは、軽くて味のアレンジがきき、保存も可能だったからだ。小麦粉アレルギーで悩む友人がいたこともあり、誰でも食べられるおいしいものを作りたいという思いとも一致した。グラノーラに甘みをつける材料としてメープルシロップを選んだのも、自身が決めた条件で絞りこんだ結果だった。
オンラインマーケットプレイス「creema」に出店すると、すぐにイベント出店への声がかかる。しかしコロナの流行で出店機会はゼロに。結局、コロナ禍中はネット販売と小規模なマルシェの出店でしのぎ、病院勤務も続けた。過酷な時期ではあったが、この間「京都グラノーラ工房」のファンは、着実に増えていく。
■顧客の要望に合わせ、主力商品を変更
2022年９月の実店舗オープンを機に、名称を「京都メープルワールド」に変えたが、これは現在の商品構成とも関係している。チョコレートやナッツはもともとグラノーラに入れていたものだが、ある頃からグラノーラに含まれるチョコやナッツだけを売ってほしいというお客さんが現れ始めたのだ。
これらはすべて市販品に納得できなかった高須さんが一から作っており、特にチョコは乳製品や砂糖、添加物を一切使わないヴィーガンチョコレート。高須さんは顧客の要望に応じ、ヴィーガンチョコレートやメープルシロップ味のナッツの単体販売を開始。一方でグラノーラは売れ筋商品を絞り込んでいった。
現在の売上の割合は、百貨店のポップアップやイベント出店が６、通信販売が３、店舗が１程度。店舗を持った今もイベント出店を続けているのは、いろいろなお客様に出会えることと、他の出店者との情報交換のためだ。イベント出店すると必ず来店してくれるお客様も多く、多忙な中での楽しみと励みになっている。
■変化する原料価格に合わせる難しさ
昨年から店舗で有機栽培のいちごを使ったスムージーの販売を開始した。チョコレートに代わる商品の開発に着手している理由の一つがカカオの高騰だ。2023年あたりから産地の天候不順などで、カカオの生産量は激減。原料の値上がり幅は約30倍にもなる。ただ今後、むやみに原材料の種類を増やすつもりはなく、可能な限り、今扱っている材料で作れる新商品の開発を考えている。「京都メープルワールド」の原料廃棄率は10％を切るが、これは生産量を慎重に決め、万一、失敗した場合も、材料を生まれ変わらせる工夫をしているためだ。そしてあくまで主役はメープルシロップ。メープルシロップのおいしさが引き立つ新商品の誕生に、期待が膨らむ。
◎店舗情報
店舗名：京都メープルワールド
住所：〒606-8203 京都市左京区田中関田町23-10
電話：075-585-4652
アクセス：京阪電車「出町柳」駅から徒歩7分
営業時間：12:00～17：00
定休日：不定休
各種クレジットカード、QRコード、電子マネー決済可
ＨＰ：https://www.instagram.com/kyoto.maple.world/
※「『映える』フルーツサンド」に関する記事は以下より
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