一度でも味会うと離れがたくなる不思議な空間。酒に合う料理の数々もある。中でもクセになるのが秘伝のカレー。毎日あるとは限らない人気メニューに出会えれば、ラッキーだ。
■築半世紀の古アパートにある店
デパートやファッションビルが立ち並ぶ福岡市中央区天神から西側に広がっているのが「大名」と呼ばれるエリアだ。江戸時代、福岡藩の大名の屋敷が並んでいたことに由来するが、東京で言えば渋谷や原宿といったところだろうか。その大名に築50年を超える古いアパート「養巴コープ」がある。元々は居住用だったが、現在では個性的な飲食店が集まるスポットとして知られている。
そのアパートの一室、206号室に『Jirka(ジルカ)』がある。「酒とアテと音楽」がこの店のコンセプトの、ひとりでも気軽に入れるバーだ。この店がオープンしたのは2021年5月。コロナ禍の真っ最中だった。この店のオーナーjuri(ジュリ)さんはもともとOL。だが、OL時代から「間借り」でバーを10年ほど経営していた。特に飲食店に興味があったわけではなかったが、14~15年ほど前、天神より南に下った平尾という地域に住んでいた時に、友人たちとワインカフェを訪れたのが転機となった。
「居心地がよくて、1人で飲みに行くようになったんですが、カウンターで様々な人との出会いがあり、また別れがあり、なんか“駅”みたいだなと思ったんです。次第に自分でもカウンターのお店をやってみたいな、と思うようになりました」
ホワイトシチュー 800円
▲とりトマト煮込み 700円
■コロナ禍を転じて現在の店に
ほどなくしてワインカフェのスタッフに空きが出たため、OLを辞めてスタッフとして週に数回働くようになった。その後、しばらくして知り合った店で間借りのバーを何度か経営したことも。昼は派遣の仕事をしながら、夜は週に何回か間借りのバーを経営――そんな生活が数年続いた。その間、お店を出してみようかと物件を探したことも何度かあったが、タイミングや金銭面の都合で実現しなかった。
2019年ごろ、たまたま友人たちと訪れた鉄板焼のお店のオーナーと意気投合。その日にオーナーから「この店やってみない?」と持ちかけられた。オーナーは別の店で料理の修行をするという。「ちょうど、昼の仕事も夜の友人の飲食店でのバイトも辞めていたときだったため、この話に乗ったんです。間借りとはいえ、家賃も払うし仕入れも全部自分でやる。この時、はじめて飲食業一本で生活することになったんです」
しかし、それからほどなく新型コロナのパンデミックが起きる。昼だけ店を開けたりしていたがお客さんがあまり来ない。そのため、2年続けた間借りの店をやめざるを得なかった。
その2~3ヶ月後、現在の店舗が空いていることを知り、入居を決めた。しかも食器やコップなどすべてが揃った状態で、今も、借りた当時からほとんど内装をいじっていないという。その分、居抜き料や保証金など数百万円かかったが、知り合いから借りてなんとか用意した。
■生演奏と気分次第のカレー
「ここはひとりのお客さんが多い。宅飲み感覚で来てくれるので、居心地のいい空間づくりを心がけています。お酒があれば、やはり音楽は必要ですから、特にこだわりはありませんが、落ち着きのあるジャズを流すことが多いでしょうか。たまにアコースティックの楽器による生演奏のイベントも行っています」
酒のアテとして人気なのはカレーだ。その日、その気分で具材は変わるし、カレーがない日もある。味はお家カレーの延長だが、秘密の隠し味(何を使用しているのかどうしても教えてくれなかった)によってクセになるとお客さんの評価は高い。この店が入るアパートの中にはフレンチやイタリアンもあり、そこからデリバリーすることも可能だ。
「食べたいものをリクエストしてくれれば、作ります。もちろん、用意していない食材もあるため、メニューには限りがありますが」
この店のもうひとつの特徴は「掲示板」があることだ。一緒に旅行に行く相手やバンドのメンバー、カラオケに行く仲間を募集する書き込みなどがある。ひとり客が多いがゆえの、仲間募集といったところだろうか。
「お客さんの心のマッサージをして、ほぐれて帰ってくれたらいいなと思っています。お客さん同士でほぐしあってもいいし、そんな空間を提供したいなと思っています」
◎店舗情報
店名:ジルカ
住所:福岡市中央区大名1-8-5 養巴コープ 2F
営業時間:18時~25時
定休日:火曜日
席数:カウンター8席、テーブル1席
※福岡の「喫茶喫酒 おまめ」に関する記事は以下より
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