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人気の会館にたたずむ日本ワイン専門酒場の身の丈感(@京都・四条烏丸)


近年、京都で若者たちの間に広がっているのが「会館飲み」だ。「会館」とは何軒もの狭小酒場が入る集合建築のことで、昭和な雰囲気の建物に個性的な店が連なる。代表的な「京都三大会館」のひとつである四富(よんとみ)会館にある『日本ワイン たすく』を訪ねた。

■肩が触れるくらいのサイズ感

 切り盛りするのは、店を構えて今年で16年の池西祐佳(いけにし ゆか)さんだ。今でこそ各地にワイナリーができ、広く認知されるようになった日本ワインだが、『たすく』開店当時の日本ワインはまだ黎明期。そのころから池西さんは日本ワイン専門で勝負し続けている。
 店は和室に置き換えれば6畳程度と狭い。間口は広いが、店に一歩入ればすぐにカウンターで、席数は9席。満席時は隣の人の肩があたりそうだ。が、池西さんにとって、このサイズ感が物件を決めるポイントでもあった。「一人で接客して目が届く範囲」にある身の丈感を大事にしたかったからだ。さらに、ひとり商売だから心配ごとは少ない方がいい。借金を負わずに始められることも、開店にあたり池西さんが自分で決めた条件だった。
 店を構えたのは2008年6月。同じく四富会館の中だが、場所はもう少し奥にあり、席数は5席と現在よりさらに小ぶりだった。満席の日も多く、次第に来店するお客さまを断る日が増えていった。あるとき常連客に「あんた、この店で日本ワインが広まると思ってるの? もっと広い店でやれ」とズバリ言われてしまう。開店してから2年ほど経ったころ、現在の場所が空いたことを期に移転した。その際も居抜きを活用し、元寿司屋ならではの一枚板のカウンターや木の戸棚はそのままに、最低限の改修に留めた。そこにも池西さんの「身の丈感」がしっかりと表れている。

▲かつては寿司屋だったこの店、カウンターも奥の棚も当時のまま大切に使っている


■知人ではなく「いちげんさん」を大切に

 池西さんが考えるお客さんとは、「純粋にたすくを知って来てくださる方」。席数が少ないこともあり友人や知人より、まずはいちげんさんに来てもらわないと、とあえて開店の挨拶状は出さなかった。友人は本当に困ったときに頼ればいい。そして本当に困ったときに助けてくれるのが友だちだ、とも考えた。
 店は次第に注目されるようになり、大衆酒場、女子酒場、ディープ酒場など、その時どきの酒場ブームや日本ワインの認知度向上もあって、人気店に育っていった。コロナが席巻した時期も「状況が変わったのだから、その中でできることをやろう」と切り替えた。
 飲食店に課されたさまざまな制限を、自分流で面白く捉え直し、持ち帰りの量り売りワンカップワインや弁当販売を行うなど、工夫を惜しまなかった。外出自粛や酒類販売禁止の時期は、故郷に帰れないお客さんを慮り、日本の有名銘菓を取り寄せ、ワインの代わりにお茶を出して営業した。
 これまで、厳しいと感じた時期はなかったのだろうか。すると池西さんは少し考え「思い出せない。たすくにおいて厳しいことは、全部、自分が原因」ときっぱり。どのような状況でも知恵を絞り、一人でやることの身軽さを大切にしてきた。コロナ禍を乗り切ることができたのは、早めに考え方を切り替えられたことに加え、大箱でもなく、従業員もいなかったからかな、とも話してくれた。

■野菜をつまみにワインを飲むと……

『たすく』にはワインリストもおつまみのメニューもない。店で提供するワインは、ワイナリーを訪問したり生産者に会ったりして、池西さん自身が選ぶ。ワインリストは常に頭にあり、客の好みや酔い具合を丁寧に聞き取って、おすすめを提案する。
 おつまみはワンプレートのみ。「始めたころはメニューもあったのよ」と池西さん。あるときから、メニュー表の端から端までオーダーする人が現れはじめ、料理をしつつワインの説明もするという、大変な状況になったそうだ。対応できない、と思い始めたころ、母親に「おつまみは注文されなくても出してあげなさい」と言われたことがヒントとなり、現在のメニューなし・ワンプレートスタイルが誕生した。
 プレートの中身は、年々変化してきたが、現在のプレートは、味付けも調理法も多彩な野菜料理。たっぷりと盛られたひと皿で、白ワインから赤ワインまで楽しめるように考えられている。以前は肉や魚の料理も提供していたが、2021年コロナ禍中の夏、野菜料理とワインの組み合わせの快適さに気づいたという。「週に一度、月に一度、野菜をアテに日本ワインで晩酌する日があってもいいのでは?」という発想だ。
 確かに『たすく』で飲んだ日の翌朝は、目覚めたときもすっきり。野菜だけなんて頼りない、と思う方もぜひ試してほしい。これが意外にいいんじゃないかと思うこと請け合いだ。

▲大変という状況を思い出せない、と笑う池西さん。「厳しいと感じたら、何とかするし、何とかなる」

◎店舗情報
店舗名:日本ワイン たすく
住所:〒604-8054 京都府京都市中京区富小路通四条上ル西大文字町615
電話:080-1500-8159
アクセス:阪急烏丸駅、京都市営地下鉄四条駅から徒歩7~8分
営業時間:2000 – 0000(2330 L.O.)
定休日:日曜日
席数:9席/禁煙
支払い:現金のみ
SNS:https://www.instagram.com/yukaikex/(インスタグラム)

※「埼玉県吉川市にある居心地のいい居酒屋」に関する記事は以下より

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