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選び抜いた大切なコーヒーを提供するTORANOKO。直火式焙煎の味を楽しんでほしい


現在の日本では美味しく、しかも多彩なコーヒーを味わえる。流行の最先端を走る味わいも楽しめる。その分、店舗は厳しい競争に晒されるが、こだわりを貫いて来店客の思いに応えようとするのが『TORANOKO』。良い香りに満たされたコーヒー・ショップを紹介する。

🔳コーヒーのイベントで味わったショック

 いらっしゃい!

 JR中央本線の四ツ谷駅から新宿通りを新宿方面に10分弱ほど歩き、右手の細い路地に入るとカフェ、『TORANOKO』(トラノコ)が姿を現す。生産地や生産方法までこだわったスペシャルティコーヒーとここでしか味わえないスイーツで足繁く通う人を増やす。しかしオーナーである越湖吾一さんは開業当時を意外な言葉で回想する。
「『よく店出したな、すげえ勇気』と自分に言ってやりたいくらい。通ってくれたお客さんと妻が作るスイーツに助けられたと感謝しています」


 吾一さんは開業を意識する前からコーヒーを好んで飲み、「美味しい」と言われる店舗も回っていた。しかし実は、「コーヒーって美味しいのかな?」、「コーヒーの美味しさって何?」と感じてもいた。
だが、そう感じていた人は少なくないのかもしれない。
 かつて、高品質のコーヒー豆を日本で入手するのは難しかった。いい魚が築地に集まるのと同じく、いい豆はヨーロッパや米国に集まっていた。豆の質が悪いから、コーヒーが酸っぱいか苦いという時代が日本にはあった。
 えぐみと酸味が強く、美味しいとは言えない豆をいかにしてうまくして飲むか、と先人たちは試行錯誤。一昔前の日本の一般的なブレンドは、「1種類の豆では美味しくないけど、掛け合わせたら美味しくなるかも」という創意工夫の産物である。

▲自分好みの一杯を探し出してほしい


 吾一さんのわだかまりを解いたのはあるコーヒーとの出会い。『珈琲職人』(東京都西荻窪)のコーヒーを飲んで「美味しい」と感じた。1年ほど同店に通ううちに弟子制度を知り、今は亡き師匠に弟子入り。営業職で生活費を稼ぎながら週に1回ほど珈琲職人で働き、6年の修行を経て2017年に開業を決意。寅一という名の祖父から数えて三代続けて寅年生まれとなる吾一さんはTORANOKOという名を店に冠した。
 だが、途端に違和感を抱くことになる。習得したこと、できると思っていたことが再現できないのだ。
「直火式焙煎では、お店の場所や構造、あるいは煙突の長さによってやり方を微調整しなければならないのです。また、焙煎機の使用年数によっても焼き上がりは異なります。使うことによってシリンダーの内部にコーヒー・タールが蓄積され、蓄熱度合が変化するからです。数十年も使用された物と新品では出来上がりが異なります。多くを学びましたが、師匠は職人気質で『オレの背中を見て覚えろ』という人でしたから」
 今なら簡単に説明できることが、6年前は吾一さんを困らせた。「教え以外のことは見るな、触るな」という指導方針もマイナスに働いた。
「お客さんの会話からトレンドを仕入れるような状態でした。『浅煎りコーヒーが流行しているのか』など……」

▲豆の香りを確かめてコーヒーの仕上がりを予想をするのも楽しみの一つ


 危機感を覚えた吾一さんは、リスキリングを決意。一般社団法人『スペシャルティコーヒー協会』が年に1回開催し、業界の先端を追う『SCAJ』というイベントに参加したのはいいが、さらなるショックが待っていた。
「『直火式焙煎』という札を首に下げて回ると、『今さら、直火なんかやってるんですか?』、『潰れちゃいますよ』とボコボコにされました(笑)」
 コーヒーの焙煎方式には2種類ある。吾一さんが取り入れている直火式焙煎と現在の主流派とも言える熱風式焙煎だ。
 端的に言えば、熱風式焙煎は直火式焙煎のデメリットを解消し、一つひとつの豆を熱風で包み込んで安定的に持ち味を引き出すもの。IT化も著しい。最新の熱風式焙煎気では水分や糖分などをはじめとしたあらゆる豆の状態をデジタル管理でき、5秒後、10秒後の豆の状態も予測できる。
「(データを駆使できるため)若い人たちの中にはマニアックな人たちが多い気もします。彼らの提供するものはある意味、昔よりレベルが高い」
 比すると、外的要因に左右されやすい直火式焙煎はまるでじゃじゃ馬のよう。日々、ご機嫌伺いを立てる吾一さんは言う。
「両者はまったく異なると考えたほうがいいかもしれません。熱風式は豆自身の味を楽しむのに適している方法。直火式は再現性が非常に低いのですが、メイラード反応を起こしやすく、中間から深煎りのコーヒーに適しています」
 質の高いコーヒー豆が流通している今の日本で熱風式が支持を得るのは自然なのかもしれない。
 吾一さんに、熱風式焙煎機に切り替える気持ちはないのだろうか?
2台目として追加する可能性を残しつつ、「ここまで来たらやるしかない」と笑いながら続ける。
「自分に経験値やデータが蓄積されてきていますし、『あいつ』にもタールがいい感じでついてきているからです」
 そう言う吾一さんの視線の先には店の奥に控える直火式焙煎機があった。

▲越湖さんの相棒である直火式焙煎機


🔳TORANOKOに込められたもう一つの思い

 ただし、積み重ねた経験や過去に固執したり、選択の正当性を誇示したりしたいわけではない。
SCAJには今も通って情報を得る。
「納得して耳の痛いことを聞いていますよ」といたずらっ子のような顔をしてから、「焙煎方法こそ違えど、コーヒー豆を炒る者同士、発見はある」と目を輝かせる。
 吾一さんの話を聞いていて感じたことがある。それは「式」や「店」の優劣を決めるためにコーヒーを淹れているわけではないということ。客が美味しいと思う一杯を提供するために日々、気候や豆の状態、そして「相棒」と向き合い、さらにはお客さんとのコミュニケーションを重視しているのだ。
「コーヒーは嗜好品であり、飲む方の好みやその日の体調によって味の感じ方が左右されるケースもあります。ですから好みを聞き、焙煎した豆の香りを嗅いでもらった上で決めてもらいます。豆を封入した瓶の蓋を何度も開けるのはリスクばかりですが、選択する上でのヒントにしてほしい」

▲『たまごたっプリン』もTORANOKOの名物


 豆の香りから得た予測をコーヒーの味で覆されるのも面白味の一つ。そして、定期的に破棄することになるが、常温で保存されている瓶詰の豆は刻々と変化する。通い続け、変化し続ける豆とコーヒーの味を定点観測する方もいるらしい。
 そういう客と接し続ける吾一さんは言う。
「コーヒーの味は焙煎だけで決まるわけではありません。お湯の注ぎ方など、わずかなことで変化します。おこがましいですが、プロ野球選手だって『指のかかり具合一つ』みたいな話をしますよね(笑)。私はまだ『鼻たれ小僧』ですが、一定の水準はいつもクリアしていると思いますし、『今日はすごい』という時もあります。だから続けられるのだと思います」
「コーヒーのオタクみたいですね」という問い掛けに苦笑する吾一さんは阪神タイガース・ファンでもある。
 TORANOKOに密かに込められた38年ぶりに日本一となったチームに対する思いと、コーヒー職人としての喜びには相通ずる部分がありそうだ。

 ありがとうございました!


◎店舗情報
店舗名:TORANOKO
住所:東京都新宿区三栄町6番14号 寿ビル1F
アクセス:東京メトロ丸ノ内線より 四谷三丁目駅 徒歩6分、JR中央本線四ツ谷駅より徒歩7分
営業時間:1030~1800(要確認)
定休日:不定休
席数:10席(テーブル:2卓)
喫煙・喫煙:禁煙
SNS:https://twitter.com/toranokocoffeehttp://Instagram.com/toranoko1521

『アースフード』を味わえる料理店の訪問リポートは以下より

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