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蒲田の片隅に根を張る「そら豆」。連日の人気を呼ぶ口コミの中身


SNSはやらない。でも口コミで人の輪が広がる。そんな人気店だ。一見は入りにくそうな外観だが、中は懐かしい実家のような空間。開店四半世紀も近づく店の歴史とこだわりポイントを訊くと――。

■口コミのみで連日満員に

 今日では珍しくSNSも持たないアナログな経営で、文字通りの口コミが評判を広げていく。かといって常連客だらけの敷居の高さもない。全15席がほぼ連日満席になる、そんな店が都内大田区の蒲田にある。開店23年目の『お茶の間バー そら豆』だ。
 JR蒲田駅東口を出て線路沿いの路地を北に進み、土地柄にふさわしい「呑川」という川に行き当たる手前に店はある。木製の引き戸から店内の様子はうかがえないが、店頭の献立版には居酒屋好きを引きつけるカジュアルな値段のメニューが多い。

▲「○○の肉巻き」は定番。この日は生姜で、何でも巻かれる


 すこし勇気を出して戸を引けば、そこは間接照明に包まれた家庭のような空間だ。靴を脱いであがるので、お茶の間バー。約10坪の店内に、「く」の字型のカウンター席と3つの卓袱台がつかずはなれずの絶妙な距離感で配置されている。
 2001年の開業時は飲み物中心のバーだったが、現在の店の売り物は豊富な食べ物のメニュー。創業時からの定番の鶏唐揚げ甘酢がけや豆腐の明太焼を軸に日替わりの品がそろい、グルメサイトの口コミには「丁寧な仕事でどれもおいしい」という評価が並ぶ。

■常連グループを解きほぐし

 そのメニューを手際よくさばくのが、同年代コンビの佐藤元拓さんと谷口真理子さん。この10年、オーナーと店長として2人で切り盛りしてきた。佐藤さんがおもに厨房で料理をさばき、谷口さんがホールで采配をふるう。
 佐藤さんが言うには、「店には変化が必要なので、メニュー、内装、外装などをすこしずつ変えています」。客が気づくか気づかない程度の変化を積み重ねてきたことが、新鮮さを保ち続けている理由だろう。

▲元スナックという店内。間接照明が温かくて心地よい


 客が集まり散じるのは店の常。その循環が心地よく回っているのも、人気の秘密と見た。
 佐藤さんはこの店を皮切りに焼きとん店などに事業を拡大した前オーナーから10数年前に店を引き継いだ。当時の一番の悩みは、お客さんの「固定化」。常連客は大事だが、顔ぶれが一定だと店は死んでしまう。それが19歳から飲食業界で働いてきた佐藤さんの見立て。小さくて居心地のよい店ほど、そこが命取りになりかねない。
 引き継いでしばらくは、毎日のように集まるグループを少しずつ解きほぐし、風通しをよくすることに心を砕いた。谷口さんが言う。「いまでも他のお客さんの悪口を言うのを少しでも聴いたら、『言うのなら、本人の前で言ってください』とその方に告げます。実際に言わせると仲が良くなったりするものです」
 新しい客と見たら常連さんにカウンターから卓袱台に移ってもらい、客同士を紹介して輪を広げる。が、グループや派閥は作らせない。20代で舞台女優を経験した谷口さんによれば、「人間観察が大事なのは舞台も店も同じ」。自認する地獄耳で店内中の会話に耳を澄ませ、気配りを怠らない。

▲日替わりの新鮮なお刺身は魚系居酒屋出身の谷口さん仕込み


■独身男性にも気遣い

 客層は独身の30代男女が中心。メニューにサラダを多めにすることで一人暮らしの男性の健康に気遣いをしている。栄養分が多い大豆から抽出した茜茶ハイも他店にはない売り物だ。そのほかには栃尾の油揚げなど、地方出身の常連客とのやり取りから取り入れたご当地メニューもちらほら。地方にUターンした「元客」が上京の折に引き戸をくぐることも多い。客単価約3,500円で飲食比率はフードが6割という数字に、食べるために飲むというお客さんの嗜好が表れる。

▲飲んだしめにはまかないから生まれた、納豆レタスチャーハンを


 蒲田の飲食街は、コロナ禍がひと段落した後、店の入れ替わりが激しくなってきているという。店舗の賃貸料もコロナを機に坪2万円と値上がりした。「厨房が狭くて仕込みが大変なのと、冷蔵庫が小さいのが悩み。深夜営業の店はコロナで減りましたが、仕事帰りの人のためにも続けていきます」と2人は口をそろえた。
 天高く伸びる縁起物が店名の由来だが、飲食激戦地の片隅に小さくもしっかりと根を張り、もうすぐ四半世紀を迎える。

▲43歳と同年コンビの佐藤さん(左)と谷口さん(右)

◎店舗情報
店舗名:お茶の間バー そら豆
住所:東京都大田区蒲田5-3-7 司ビル1F
電話:03-3737-6060
アクセス:蒲田駅東口から徒歩5分
営業時間:火~土:17時~翌3時/日:17時~24時
定休日:月
席数:15席(カウンター5席、テーブル10席)
喫煙可
HP:https://r.gnavi.co.jp/bpa1pefu0000/

※「1000円ボトルで家飲み気分の居酒屋」に関する記事は以下より

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