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創業40年の老舗は、東京にある「広島」(@高田馬場)


長く愛される秘訣は元高校球児の2代目店主が焼く、誰にも真似できない味。広島カープのカレンダーや有名人のサインが掲げてある店内はいつも賑わい、先代の時代から変わらないメニュー目当てに遠方から来る常連客も多い。

■ 2代目は学生バイトあがり

 いらっしゃい!

 高田馬場駅から歩いて5分。雑居ビルの狭い階段を上がるだけで、いい香りがしてきた。2階の店舗のドアを開けると、店内には広島カープのポスターやカレンダーに、定番の広島市の一枚地図も掲げてある。広島によくある、町のお好み焼き屋さんと言われても違和感はない。赤い「廣島魂」のTシャツを着た店主が、「いらっしゃい」と出迎えてくれた。はっきりいって不愛想。これも広島あるあるだが、その不愛想なオッチャンは元高校球児だ。「ただシャイなんですよ」と石井英次(56)は頭をかく。
 35年前に広島から大学進学のために上京すると、入学式の前かられもん屋でバイトを始めた。れもん屋の原点は、1970年代、広島の修道高校の卒業生ら3人が、学生時代に早稲田で開店したバーだという。そこで当時、出していたのがまだ東京ではあまり知られていなかった、広島のお好み焼き。そのうちの2人が、飯田橋でお好み焼き店「れもん屋」を開き、続いて高田馬場にも出店した。
 東京の大学に進んだ修道高校の卒業生が、先輩から紹介されて「れもん屋」でバイトをする伝統が続いていたが、2浪して大学に進学した英次も、先に上京していた同級生に紹介されたクチ。「実は千葉の大学にも合格していまして。もし千葉の大学へ進学していたら、いまごろは何をしていたか……」。

▲雑然とした店内。これが郷愁を誘う

■先代の急逝でオーナーに

 お好み焼きの匂いが染みついた4年間はあっという間に過ぎ、大学とれもん屋を卒業してアパレル企業などで10年ほど働いたころ、転機があった。働いていた会社を私的な事情で離れることになったのだ。「次の人生、どうしようかの」と悩んで相談したのが、バイト時代に世話になった高校の大先輩だった。れもん屋の創業メンバーの一人が、飯田橋の一号店と別経営になった高田馬場の店のオーナー店主になっていたのだ。
 先代オーナーの下で、社員として働くようになると、すぐ「焼き手」に抜擢された。バイト時代は見るだけだったが、今回は直伝。試行錯誤を続けながら経験を重ねていくと、いつの間にか、お客さんが「英次が焼くお好み焼きも美味いのぅ」と言ってくれるようになった。お世辞だったのかもしれないが、自信になった。
 9年働き、自分の腕に自信が持てるようになったころ、外の空気を吸いたくなって退社した。別の鉄板焼き屋で焼き手として働くようになり、1年もたたないころだった。電話が鳴った。高田馬場のれもん屋のオーナーの訃報だった。
 葬儀が終わってほどなくして、先代オーナーの夫人から「お店を再開したいので戻って来て欲しい」とお願いされた。恩返しができるチャンスと2度目の復帰をしたが、2年後に夫人から「店を閉めたい」と切り出され、資金を集めて悩んだ末にお店を買い取った。2013年1月から、オーナー店主になった。2代目が焼く「さっぱり」のお好み焼きは評判を呼び、わずか数年で借金を返済できたという。

▲英次が焼くお好み焼きは「さっぱり」。ねぎかけが合う

■誰も真似できん味

 広島お好み焼きは、定番の肉玉ソバでもお店によって味が違う。「焼き手」によっても変わる。「ぱらぱら」「ふわふわ」「さっぱり」「重め」「硬め」「ぱりぱり」……。いろんな表現があり、さまざまな流派もあるが、英次のお好み焼きは、高田馬場のれもん屋の先代オーナーの流れを汲む「さっぱり」だ。「お好み焼きって、焼き手の個性が出るんです。同じように焼いても、味は違う。一枚ずつ焼くならまだ簡単ですけど、何枚も一気に、並行して焼きながら、同じ味を出すのは難しい。俺のは、誰にも真似はできんと思います。こだわりですか? こだわりがないのが、こだわりです」
 そんな評判もコロナ禍には勝てない。支援金を得てお店は維持したが、客足はコロナ以前には回復していない。少しずつかつての常連が戻り、広島人たちも「ソウルフード」を求めて足を運んでくれているが、まだ動きはゆっくりだ。
 家賃と光熱費など固定費が35万円ほどかかる。食材の値上げも著しい。予約で忙しくなる日はバイトに入ってもらうが、基本は「ワンオペ」。お客さんをお断りせざるを得ないこともある。「本当に申し訳ないです。せっかく食べに来ていただいたのに……。どうにかせにゃいけん。あと10年、この店を守りたいと思っています。ここでしか食べられないお好み焼きの味ですから。お店を盛り上げるために、いろいろな仕掛けを考えているところです」
 口に入れると適度な蒸れ具合にキャベツの甘みとそばの風味があいまって、ゆっくりと味が広がっていく。おそらく都内では、もっとも美味しい広島お好み焼きだろう。広島には名人級の焼き手がいるが、決して引けを取らない。
先代から受け継いだ伝統の味をできるだけ多くの人に食べてもらうため、英次はお店の経営と「お好み道」をさらに究める。(敬称略)

 ありがとうございました!

▲見事なコテさばきで焼く2代目オーナー店主の石井英次さん

◎店舗情報
店舗名:れもん屋
住所:東京都豊島区高田3-11-18 TTAビル2F
電話:03-3209-9613
アクセス:高田馬場駅から徒歩5分
営業時間:火~日・祝日/1700~2300
定休日:毎週月曜日、お盆、年末年始
席数:28席(カウンター8席、テーブル20席)
喫煙可
HP:https://lemon-ya.com/

※茅ケ崎の「串に刺さない焼き鳥」を提供するお店に関する記事は以下より

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