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店舗訪問

北の大地で育まれた『音威子府そば』を新宿区荒木町で再現したチャレンジの心


独特の風味の田舎蕎麦が北海道と東京をつないだ。黒いビジュアルと強いコシで人々を魅了する『音威子府そば』を都内で提供する珍しい店を訪ねた。

🔳お土産でもらって圧倒される

 いらっしゃい!

 蕎麦を茹で上げ、コシを感じられるように水と氷でしっかり締めていると、カウンター越しに客の視線を感じる。「思ったよりも黒い」という小声が聞こえてくることも。提供した蕎麦を恐る恐る一口すすった客が、箸を進めるのを見るのがうれしい。四谷三丁目駅近くに店を構える『音威子府TOKYO』の鈴木章一郎さんはそう言う。
 毎日食べられる価格と味をコンセプトに『つぼみ家』という立ち食い蕎麦店を2009年から開いていた鈴木さんが、道内で最も人口が少ない村で作られた『音威子府そば』を北海道出身の客からもらったのは7年ほど前のこと。まず蕎麦の色の黒さに圧倒された。ビジュアルのインパクトに気を取られていたが、取り寄せて味を確かめると、麺の角はちゃんと立っているし、密度も高くて美味しい。

▲誰もが最初は圧倒される蕎麦の黒さ

■フルマラソン状態に疲弊して

 鈴木さんは四谷三丁目の1号店に続いて2013年に神田に2号店を開き、苦労をしていた。低価格で客の回転頼りの薄利多売型の商売は、店主もスタッフもフルマラソンを走るような日々が続く。いつの間にか疲弊し、自らのやり方に疑問がふくらんだ。契約の関係で神田店を閉めるタイミングで、決心する。
「毎日じゃなくても月に1回、あるいは半年に1回でもいいからわざわざ足を運んでもらえる蕎麦屋を構えよう」

▲店内には座席のほかに小上がり(右写真)もある


 主力商品を考案する段で、黒い蕎麦のインパクトがよみがえった。音威子府そばの代名詞は『常磐軒』というJR宗谷本線音威子府駅の待合所にある立ち食いそば店と聞きつけた。実際に足を運んで視察し、新店舗は本家と異なり、見栄えのする高価なザルに乗せ、数種類の薬味も提供することで趣向を変えることにした。物件選びも利便性より家賃を重んじて広告費をねん出。営業時間を短くして確保した時間を、メールやSNSを駆使した広報に充てた。従業員の休みも確保した。

🔳100年近く続いた製麺所が廃業

 2019年10月のオープンから活況を呈したが、その後は苦難の連続。新型コロナウイルス禍に続き、音威子府そばの製麺を一手に引き受け、100年近く続いた畠山製麺が2022年8月末日に廃業することが明らかになった。製麺方法は門外不出と知り、麺の在庫を確保しつつ、千葉県茂原市にある『音威子府食堂』と共同で再現に挑んだ。
 音威子府そばの特長の一つは蕎麦の実を丸ごと挽いて作る「挽きぐるみ」。挽きぐるみ自体は特別な手法ではないが、なかなか再現できなかった。食感を求めれば風味が、豪胆な風味を優先すれば食感が落ちる。「昔ながらの技術で、とてつもなく難しい。太いのにのど越し滑らかな食感と特に黒さを再現するのに苦労しました」。微妙な歯車が嚙み合い出すまでに1年近くを要した。

▲音威子府蕎麦と対極にある蕎麦とも言える更科蕎麦も食べられる

 今でもまだ細部に改良の余地があると言うが、北海道出身の方が昔の味を懐かしんでくれたり、北海道旅行の時に音威子府駅で食べた味を思い出して思い出話に花を咲かせる客が訪れたりするようになった。お礼の言葉を聞いたのも一度ではない。
「我々は音威子府そばの次の100年を生きている。守るべきは守りつつ変えるべきは変え、これからの人々が美味しいと感じられる音威子府そばを目指していこうと関係者と話しています」
苦心して再現した商品の名を『新‼︎音威子府そば』としたゆえんだ。

 ありがとうございました!


◎店舗情報
店舗名:音威子府TOKYO
住所:東京都新宿区舟町3-6今塚ビル1F
アクセス:四ツ谷三丁目駅(丸ノ内線)から徒歩3分、曙橋駅(都営新宿線)から徒歩7分
営業時間:火〜金@昼1130-1400&夜1700-2300/土、日@昼1130-1430&1700-2300
HP:https://peraichi.com/landing_pages/view/otoineppu/
SNS:https://twitter.com/otoineppu_tokyo(X)

※「茹でたん発祥店」に関する記事は以下より

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