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家庭のような空間が心地よい黄金比率のカフェ&バー(@新小岩)


新小岩駅近くの飲食激戦地で開業10年に迫るカフェ&バーに流れるのはファミリーというコンセプト。居心地の良いウッディーな空間を成立させる飲食比率のヒミツとは?

■営業と店長10年を経て開店

 いらっしゃい!
 
 名物料理があるわけではない。斬新なカクテルがあるわけでもない。明朗快活なオーナーの周囲に自然と酒好きの老若男女が集う。そんな店が都内葛飾区の新小岩駅近くにある。南口に伸びるルミエール商店街から左に入った路地で、開店9年目を迎えたカフェ&バー『ファミリーツリー』だ。
 一日6万5千人の乗降客が行き来する駅から500メートル圏内に400軒以上の飲食店がひしめく新小岩。うち半数以上は和食店と居酒屋で、昼間は本格派のコーヒー、夜はハイボールやジンなど多彩なお酒を気軽な値段で楽しめる店は異色だ。

▲店内で生まれたヒット商品の数々


 2015年、オーナーの木山亮平さん(46)は、スノーボードのセレクトショップの営業と店長を10年で卒業して開業を決め、店や人の動向を知る調査も兼ねて、地元の不動産店を物件探しで巡った。最初は「飲食の素人が何しに来た」といわんばかりで相手にされなかったが、店のビジョンを資料にして説明をすると、耳を傾けてくれることも増えた。駅周辺の不動産店を回り尽くそうかというころ、坪あたり1.5万円と、地域の平均賃料からすると半分という掘り出し物が見つかった。パチンコ店の両替所の居抜きで、駅から徒歩5分という条件にぴったりだった。

■家のような店をめざして

 誰もがくつろげる家のような店をつくりたいというのが、新小岩で生まれ育った木山さんの思いだった。改装を終えて16年2月に開業。ほどなく、まず30歳代から40歳代の独身男女がぽつぽつとカウンターに住みつくようになった。彼らが知り合いを連れてリピートし、その知り合いが別の誰かとやってくる。その繰り返しで少しずつ空間が埋まっていった。開業前に足が棒になるまで街歩きをして観察した地道なマーケティングの成果だった。
 大学生時代から社会人にかけてバーテンダーとして働いていた経験から、店主に人間的な魅力があっても、客を待っているだけではダメだと学んでいた。フェイスブックが定着し、次にインスタグラムが主流になりつつある時期。開業と同時にSNSをフル稼働した。春秋は花見やバーベキュー、夏はサーフィン、冬はスノーボードとリアルなイベントを企画して、客を巻き込んだ。

▲オリジナルのカップ類もおしゃれ


 カウンターで顔を合わせる以上の関係になった顧客とのつながりは、コロナ禍での希望の糸になった。バータイムが営業不可ならばせめてコーヒーでも、とカフェタイムに訪れてくれる人も多かった。
 とはいえ、誰がやって来るのかわからないのが客商売。人選を誤ると店が荒れるという話は多い。客との距離の取り方のコツは何なのだろう。「近すぎず、離れすぎずの関係作りは難しいところもありますが、営業をやっていたので一目でこの人は大丈夫、この人は要注意というのはわかります」
 リアルイベントはコロナ下では中止せざるをえなかったが、回復後にパワーアップ。近々では常連客と行くタイ旅行も予定されている。

▲カフェタイムの香り高いコーヒーは丁寧に焙煎された一杯。豆の挽売りもある


 店の一つの売り物メニューは、昼間の営業時間のほうにある。バリスタとして「ジャパン・ハンドドリップ・チャンピオンシップ」の受賞歴と17年のキャリアを持つ溝渕孝典さん(35)が開業半年後からカフェタイムを担当。少量の豆を丁寧に焙煎して淹れる一杯は香り高く、近隣に本格的なコーヒーを楽しめる店が少ないこともあって、すぐに評判になった。価格は渋谷など都心に比べれば3分の2以下。初めてコーヒーの味に目覚めたという人々が集い、カウンター越しに淹れ方を学んで豆を買い求めていく。そんなコーヒー好きと昼ビールを楽しむ人が同居するのが、休日の店の光景。3人ほどがオープンエアでくつろげるテラス席も人気だ。

▲スパイスを効かせたチキンカレーは弁当化でサイドビジネスも見通している

■常連客男女2組が結婚

 昼夜合わせた月商200万円前後は1年間ほぼ一定。その秘訣は9対1という飲食比率にある。スパイスカレーなどフードの売り物もあるが、売上の90%はドリンク。木山さんが自分で「これだ」という商品を見つけると、持ち前の販売力を前面に出して「1回飲んでみて」と客に積極的に勧めていく。本人がいうところの店内キャンペーンだ。最近の流行は『しあわせ果実 鬼おろし』。レモン、梅、キーウイの果実リキュールを地元新小岩産の強炭酸水で割ると、さわやかで美味しい。大分産の『かぼす酒』も、試飲会でみつけた近年のヒット商品の一つ。店内で好評になり仕入れ数を増やすと、出荷データに注目した製造元の社員が、売り出し方のヒントを得ようと大分県から上京してきたという。

▲フードメニューは気まぐれだが美味


 フードはあえて定番を作らず、腕前の良い木山さんが食材に合わせて日替わりメニューで回す。チャーハンやパスタなどを、持ちこした材料に合わせてアレンジ。食材を効率的に運用するためフードロスが少ない。儲けはドリンクで出せ――は飲食店の鉄則だが、他店が聞いたらうらやむだろう黄金比率は、積極的にキャンペーン商品を作るアクティブさと在庫管理の工夫のたまものでもある。
 店名のファミリーツリーは「家系図」の意。店で出会った男女2組が結婚した。カウンターで知り合い、ビジネス上の関係ができた例もある。店内には、マグカップやTシャツなど店名を入れたオリジナルグッズが置かれ、店発信のローカルブランドを作ろうという工夫もうかがえる。開店8周年時にはオリジナルのルービックキューブを配った。「メインコンテンツは僕自身なので、2号店は考えていません。いろいろと仕掛けて、家系図を広げていきたい」。コロナ禍で「家族」は一定数が入れ替わったが、新しい人がまた人を呼び、ウッディーな店内には今日も心地よい空間が広がっている。

 ありがとうございました!

▲オーナーの木山さん(右)とカフェ担当の溝渕さんの元に男女の常連客が集う


◎店舗情報
店舗名:Family Tree カフェ ファミリーツリー
住所:東京都葛飾区新小岩1-50-5
アクセス:JR総武線新小岩駅南口より徒歩5分
営業時間:10時~18時(カフェ)、18時~2時(バー)
定休日:火曜日(カフェのみ)、バーは年中無休
席数:14席(喫煙可)
電話:03-5879-3718(予約可)
SNS:https://www.instagram.com/ryohei_familytree/(インスタグラム) Facebookは「Family Tree新小岩」で検索

※「クラフトビール専門店」に関する記事は以下より

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