店舗を開業する上で欠かせないのがテナントの確保であり、不動産に関する知識。この連載では、不動産業界で長く活躍するSAWASANが基本知識を紹介する。
■法律に記載されたのは2017年
前回までは権利金と保証金を深掘りしてきましたが、今回は敷金の基礎を紹介します。そもそも、賃貸人に預託する金銭が同じ趣旨であれば、保証金と敷金は法的に同じ性質のものと言えます。ただし首都圏では、店舗などの事業用物件については、住宅(住宅は敷金であることがほとんど)とは異なり保証金という名称がよく用いられます。
実は、敷金が法律に記載されるようになったのは、平成29年(2017年)の5月26日に民法の一部を改正する法律が成立ししてからのことです(2020年4月1日より施行)。以前は、民法には敷金に関する明確な規定がなかったため、認識の相違によるトラブルが発生していました。例えば、借主の過失ではなく、経年劣化による損傷の修理に敷金が使われるといったケースがあったのです。
改正民法では、敷金とは「いかなる名義をもってするかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭」と定義されています(改正民法622条の2)。物件の退去時、借主の使用に伴い発生した修理が必要な設備がある場合に支払うため、あるいは賃貸物件の借主が支払うべきお金(毎月の賃料や原状回復の費用など)を支払わない場合に備えて担保とするお金のことを敷金と言います

改正のポイントは、その名目にかかわらず「担保目的であれば敷金とする」と明確した点。また、敷金の返還時期を「賃貸借が終了して賃貸物の返還がされた時点で敷金返還債務が生じる」、返還の範囲を「受領した敷金の額からそれまでに生じた金銭債務の額を控除した残額」と定めたこともポイントです。
賃貸物件の契約が終了しましたら、通常の流れであれば、貸主、もしくは管理会社が立ち合いのもと、賃貸物件を確認して明け渡しをしたときに返還されます。が、実情は明け渡しから1カ月前後で返還されている場合が多いようです。ただし、賃貸借契約に特別な記載があれば、その限りではありません。
なお、敷金は貸主が設定することができ、貸主側が敷金を不要とした場合は支払う必要はありません。ただしその場合、あとで修繕費用を請求されることがあります。
最後に飲食店の現状回復に関するポイントを紹介しておきます。
1:現状回復の範囲
◎内装・造作→→→→→→→借主が設置=撤義務あり
◎設備(厨房・空調)→→→借主負担で撤去
◎経年劣化→→→→→→→→原則貸主負担(ただし契約次第)
2:よくある特約条項の例
◎スケルトン変換→→→→→すべての内装・設備を撤去し、コンクリート打ちっぱなし状態に戻す
◎現状有姿返還→→→→→→入居時の状態(損耗含む)で返還
◎造作譲渡→→→→→→→→設備を貸主に譲渡する代わりに撤去不要
◎敷引特約→→→→→→→→敷金から一定額を差し引いて返還(原状回復費用に充当)
参照:https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk3_000020.html
◆著者の取得資格◆
国土交通大臣、登録証明事業(4)第28034号、不動産コンサルティングマスター、相続対策専門士、宅地建物取引士(埼玉)第045713号、FPファイナンシャルプランナー第30220347号、賃貸不動産経営管理士(3)第020666号

※SAWASANの連載14回目コラムは以下より
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