店内には色とりどりのねぶたが踊り、モニターには郷土色豊かで風光明媚な風景が流れる。自慢のローカルフードを食べれば気分はもう青森。北国の魅力は舌だけでなく全身に伝わってくる。
■脱サラして2011年に開業
都心にありながら五感で青森を感じられる料理店だ。青森をあまり知らない人には入り口として、よく知る人には思い出に浸る場所にもなる。
生まれも育ちも青森県の茂木真奈美さんが女将としてホールを仕切り、山口県出身の小池政晴さんが調理場で腕を振るう。本州の両端で生まれた2人が同僚として出会ったのは、神奈川県川崎市にあった食品加工会社だ。
同社の商品開発部の一員として全国を巡っていた茂木さんは、「りんごのほかに何があるの?」と聞かれるなど、故郷の魅力がいま一つ伝わっていないと感じていた。日本の6割を占めるりんごはもちろん、にんにく、ごぼうなどの生産量は全国でも1位。同じく水揚げ高1位のイカを含め、海産物も実に豊かだ。
そんな青森の食の魅力と情に厚い県民性に惹かれていたのが、営業職として青森県に月1で訪れていた小池さんだった。「最初はとっつきにくいかもしれませんが、仲良くなると喋り出したら止まらないような距離感になるのが青森県人」と自認する茂木さんは小池さんと飲みに行き、意気投合。「青森を盛り上げる会社も面白いかも」と盛り上がり、3年ほど過ぎた2011年1月に共同経営者として起業。2人の熱い思いは『りんごの花』として花開いた。

▲青森感いっぱいの内装が出迎えてくれる。日本酒だけでなく青森ワインも楽しめる
■地元にしかない酒を仕入れる
一言で青森と言っても、都道府県面積ランキング8位と広い。県の魅力をくまなく伝えようと、多彩な文化を持つ津軽地方、南部地方、下北地方と、地域独特のローカルフードを満遍なく揃える。青森県産の素材を9割以上も使うため、送料ふくむ経費はかさむが、地元直送は譲れない。県内の「道の駅」に何度も足を運んで直接取引を交渉し、都内よりも安い値段で野菜を仕入れられるように工夫した。生産者の名札付き素材の新鮮さはそのたまものだ。「寒暖差が激しいため、特に根菜類はエネルギーをため込んで甘みが増す」と小池さんが表現する妙味は、直送でなければ味わえない。

珍しい日本酒を求める客も多い。質の良い水で醸造される高品質な日本酒で知られるのが青森。『田酒(西田酒造店)』や『陸奥八仙(八戸酒造)』といった有名どころはもちろん、東京では仕入れることのできない銘酒を5、6カ所の酒屋から入手している。オープン当初、東京でも知られる八海山を注文した客に、未知の地酒を進めて「こんなに美味しいんだ」と言われたのもいい思い出話。いまでは愛好家が足しげく通ってくれるようになった。
■発信力を強化して若者の心をつかむ
ローカルフードだけでなく、十和田豚りんご鍋などのオリジナルメニューも人気。味噌ベースのスープに野菜と豚肉を入れ、その上にスライスしたリンゴを並べると、濃厚な豚がさっぱりと食べられる。女将が青森に帰った時に見つけた味噌カレー牛乳らーめんも話題だ。

刺身や焼き魚、そして煮魚などをメニューに並べた時期もあったが、意外と注文が入らない。ありふれた料理よりも十和田豚のバラ焼きや八戸せんべい汁などのご当地料理が人気となり、大間のマグロや海峡サーモン、ホヤといった季節限定料理の注文数が伸びた。客のニーズを逃さないようにホームページやLINEなどのSNSを通じて写真や仕入れ状況をこまめに発信し、来店客には間を空けてリピートできるように「少し先の旬」を伝えてきた成果でもある。「SNSの運用には手間がかかります。でも、やらなければ厳しいですし、手応えを感じます」(茂木さん)

高めてきた発信力には副産物もあった。「映え」を重視する好奇心旺盛な若者客の増加がコロナ禍によって減った中高年の客数を補った。「何、これ!」と料理に反応する若者は、新鮮な食材をオリジナルで、という店舗のコンセプトを図らずも広めてくれた。
今後について、「青森のテーマパーク的な要素を強化していきたい」と小池さんが言えば、「飲食を提供して終わりではなく、青森を訪れるための導線機能を設けたい」と茂木さん。2人が異口同音で目指す先に、青森産りんごにも劣らない見事な果実が実ることだろう。

◎店舗情報
店舗名:りんごの花
住所:新宿区荒木町11-24
電話:03-6380-6724
アクセス:地下鉄丸ノ内線四谷三丁目駅から徒歩5分、地下鉄都営新宿線曙橋駅から徒歩3分
営業時間:火~金=17時~23時30分、土・祝=15時~22時(ラストオーダーは1時間前)
定休日:日曜日
席数:24(禁煙)
HP: http://www.ringonohana.com/
※「音威子府そば」に関する記事は以下より
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