大正から続く伝統の味は季節ごとの素材をふんだんに生かしたおだやかな京料理だ。が、四代目は時代の移り変わりに合わせた変化も恐れない。人手をうまく回しながら歴史を守るための挑戦は続く。
■旅館を閉じて京料理店として再出発
八坂(やさか)神社の南楼門を抜けて下河原通を南下する。着物姿で楽しそうに写真を撮る観光客や、道沿いの店をのぞき込むグループとすれ違い、高台寺南門通を渡ると、やや狭くなった通りの東側に『松葉亭』がある。一歩中入ると観光地の賑わいがふと消えて、静かになった。
「松葉亭」は大正元年、料理旅館として創業した。明治維新で石川県から出てきた曽祖父が始めた、と四代目の畦地桃世(あぜち ももよ)さんは言う。2010年、時代の移り変わりもあり、三代目だった桃世さんの父上が旅館の廃業を決意。松葉亭は懐石料理を中心とした京料理の店として再スタートを切った。現在、松葉亭の厨房を預かる桃世さんは、短大卒業後、東京で茶懐石を学んだ。2年の修業を経て京都に戻ると、祖父が仕切る厨房で、父や他の料理人とともに働き始めた。
■茶懐石を基礎とする自然体の料理
季節のものや素材の持ち味を生かし、シンプルに仕上げることが「松葉亭」の味の基本だ。だしを丁寧にとり、作れるものは手間がかかっても一から作る。加工品に頼らず、炊きものなどの味を強くしすぎないよう配慮する。桃世さんも祖父や父の味を大切に、昔ながらのおだやかな京料理の味を守り続けている。
化学調味料や添加物を使わず、店で受け継いできたレシピで仕上げる一番の人気メニューはランチで提供している「茶粥セット」。発芽玄米を京番茶でさっと炊き、別に作った京番茶をかけ回していただく。香ばしい茶の香りと玄米のしっかりした粒感がよく合い、いくらでもお腹に納まりそうだ。
このメニューは旅館を営んでいたころ、朝食として提供していた茶粥がベースとなっている。旅館廃業後、昼に提供するメニューとして桃世さんのご両親が工夫を重ね、懐石風にアレンジ。湯豆腐や八寸を組み合わせて現在の「茶粥セット」が誕生した。今や「松葉亭に来たら絶対、茶粥セット」というファンも多く、「松葉亭といえば茶粥」と言われる看板メニューになっている。
■ワンオペレーションでできることを考えて
料理担当の桃世さんと、サービスを担当するお母さん。いまは二人三脚ができているが、桃世さんはこの先のことを考えると、一人でもオペレーション可能な営業スタイルを作っておきたいと話す。「まだどのようなかたちがベストかは決まっていませんが」と前置きしつつ、万一、一人になっても存続可能な店のあり方を考えておけば、いざというときに慌てなくてよいだろうと思っているのだ。
いまの業態に固執もしていない。カフェのようなスタイルなども選択肢としてあるのではないだろうか、と話す。「結論が出るにはまだかかりそうですが、お祖父さんやお父さんからこれまで受け継いできたものを活かせるかたちにしたいですね」
◎店舗情報
店舗名:高台寺 松葉亭
住所:〒604-8381 京都市東山区金園町407
電話:075-561-2079
アクセス:市バス・京阪バス・京都バス「東山安井」バス停下車徒歩5分
営業時間:ランチ11:30~14:30 夜は完全予約制
定休日:不定休
席数:10席/禁煙(カウンターなし)
支払い:各種クレジットカード可
HP:https://www.matsubatei.com/
※「明治から続く老舗蕎麦屋」に関する記事は以下より
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