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「のれん」を重んじて40年。チェーン発居酒屋の老舗感(@四谷三丁目)


創業20年を越えると伝統店と言われる居酒屋業界だが、四ツ谷の名店は40年オーバー。メニューの多さと手作り工法にこだわりがこもる。店内に歴史と独特の距離感が漂う老舗の寡黙な主人に話を聞くと–。

物価上昇という逆風に立ち向かう

 四谷三丁目駅で東京メトロ丸ノ内線を降り、新宿通りから杉大門通に入ってすぐの場所に『酒蔵駒忠』と白抜きされた赤提灯が灯る。引き戸から店内に入ると、壁に張り巡らされたメニューの数々が昭和を思い出させる。
 酒蔵駒忠は居酒屋チェーン店の先駆的存在だが、独立性を重んじる「のれん分け」を採用しており、店ごとにカラーがあり、雰囲気や品ぞろえも異なる。大塚店に次いで2店舗目となる四谷三丁目店が開業したのは昭和57年(1982年)。一時は89店舗を数えた駒忠も時とともに減少し、既存店も代がわりした。そんな中、四谷三丁目店の主、三條勝悦さんは創業当初に分けてもらった「のれん」を重んじ、昔と同じように多品種、手作りを守り続けている。

▲手作りのつくね(上写真)と冬しか食べられないあん肝(下写真)


 一つひとつパン粉をつけて丁寧に焼いた手作りつくねは表面がサクサクで中はジューシー。しっかりと下処理して供されるあん肝は味わいが濃厚。旬と手作りにこだわるから冬季にしか食べられないが、常連は冬の到来を感じる。焼き物や揚げ物には付け合わせで彩を添えるのもこだわりの一つ。出来合いや冷凍物を使えば効率は良くなるが、旬の物を出したい。水槽で泳ぐドジョウの世話も手間だが、珍しがってくれたお客に柳川鍋やフライを提供して「初めてだけど美味しい」と言われるとうれしい。
 頭が痛いのは物価の上昇だ。3本で400円のねぎまには1本のネギを使うため、ネギのわずかな値上がりも気になる。勤続30年以上の駒ちゃん(仮名)は毎日の買い出しで、安売りを逃さないように自転車でスーパーをはしごする。三條夫妻と駒ちゃんという3人体制は人件費を抑えるためでもある。

▲手作り料理を楽しんでほしい

来店頻度を考慮して値上げ幅を決める

 2024年に入って一部の価格を見直し、平均して1割弱値上げ。もっとアップしたいのが本音だが、こらえた。気になったのはお客の懐具合。値上げすることによって週に1、2回の来店頻度が月1回に減れば、値上げ分は簡単に吹き飛んでしまう。馴染みの人々が頻度を変えないような幅に抑えたかった。1日あたり平均10万円くらいの売上がほしい。月の営業日が25日だとすれば、月商は250万円になるが、家賃、光熱費、人件費、材料費などを引けば大きな利益にはならない。天候やカレンダーの並びによっては2、3万という日もあり、トータルでのわずかなプラスを目指す。バブル崩壊後やコロナ禍中にはもっと厳しい数字が帳簿に並んだ。「お客さんが人いてくれるのは本当にありがたい」と3人は口をそろえる。

常連の顔が見えなくなると心配

 チェーン店にはない店員と客の距離感も老舗ならではだ。常連には毎日でも来てほしいが、お金や健康は大丈夫なのだろうかと気にもなる。頻繁に顔を出していた客がパタリと来なくなるということも少なくない。勤務地が変わったのかもしれないし、ほかに行きつけの店ができたのかもしれないが、不幸な出来事があったのだろうか、と案じるのもお互いの顔が見える店のゆえんだ。
 70歳を越えた三條さんが80歳になるまでは継続したいと思うが、残る2人も若くない。年々、サービスが遅くなったり、オーダーミスが多くなったりすれば客が離れるかもしれないという心配もある。
 居酒屋はうなぎ店やすし店のように長い歴史を誇るような業態ではないが、やれるだけやりたい。「家にいるよりも長い時間を過ごした店だからね」と寡黙な三條さんがつぶやくと、2人は店内を見回した。

▲目移りするくらい多いメニュー

◎店舗情報
店名:酒蔵 駒忠 四谷三丁目店
住所:東京都新宿区舟町3
アクセス:四谷三丁目から徒歩3分
座席数:30席(全席喫煙可)
電話:03-3353-6843
営業時間:月~木(1700~0100)、金(1700~0200)、土・祝日(1700~0000)
定休日:日曜日

※「新国立競技場近くのアースフード」に関する記事は以下より

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