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お刺身と竹酒を売り物に「料理は高級、値段は大衆」を実現できる理由(@両国)


東京の下町・両国の繁盛居酒屋を切り盛りする店主はかつて家出少年だった。築地の高級すし店での修業から苦労を重ね、連日満員御礼までのサクセスストーリーの裏側を聞いた。

■高級すし店級の料理を大衆価格で

 約320年前、47人の赤穂浪士が討ち入りし、「忠臣蔵」の舞台として知られる吉良邸の跡地と、大相撲の場所中は大変賑わうJR両国駅の東西改札口のちょうど真ん中あたりに、『ゆず』はある。正式名は、『酒菜や 両国ゆず』。この界隈でめっきり数が減ってしまった個人経営の居酒屋だ。カウンター9席にテーブル席16席というこじんまりとした店内は、いつも満席。予約なしではなかなか入れない超人気店だ。
 料理はどれも美味しい。なかでも店主兼オーナーの佐古下潔重さんが、豊洲市場から仕入れてさばく刺身は高級店並みのクオリティーだ。「開店当初から、何か売りになるものがあったほうがいいなぁと考え、季節の生ものはいいものを安く出しています。一応、すし職人なんで」

▲全25席の店内は常連でにぎわう


 すし屋時代からつきあいのある魚卸店から毎日、季節の鮮魚を仕入れている。原価率は高く利益は薄いが、おでんや串ものも併せて食べてもらい、帳尻を合わせる。当然すしも美味しく、季節の生ものを目当てに来る客は多い。これらを「竹酒」という、青竹のお銚子に入った冷酒でグイッといくのがだいご味だ。そんな具合に腹を満たしても、会計は大衆店並み。これが連日満席の理由だが、ここまで来るには、紆余曲折があった。

▲利益度外視の看板メニューのお刺身は絶品

■高3で家出してラーメン店へ

 広島の進学校である修道中学へ通っていたころ、「将来は弁護士か外交官」になることを夢見ていた。そのまま修道高校に進学したが、「大学へ行って何をすればええんじゃろ」と疑問を抱き、同級生が大学受験の追い込みにかかっていた高3の冬休みにお年玉を握りしめて家出した。手持ちのお金では隣の岡山まで行くので精一杯で、ラーメン店の住み込みのバイトを見つけて働き始める。「店主のご夫婦は最初から、家出少年だと分かっていたのかもしれません。住み込みで働いて1カ月後、『親としっかり話して、それでも働きたくなったら、いつでも来なさい』と言われ、いったん広島へ戻りました」
 高校卒業後、親から「大学だけは出なさい」と説得され、再び岡山のラーメン店で住み込みとして働きながら勉強を続けた。一浪して明治大学政経学部に入学すると、先輩の実家を頼って田端のすし屋でバイトを始めた。店に近い安アパートに引っ越して4年間、バイト漬けの日々を送った。大学卒業後、しばらくして築地の高級すし屋へ就職。「すると上のひとたちが、次々と辞めていって2年で、カウンターで握っていました」

▲高級すし屋の味が手軽に楽しめる


 カウンターに立つには10年はかかるといわれる世界。「すし屋でバイトしていた経験があったし、すでに結婚していて、年をとっていたから温情もあったと思います」と謙遜するが、番付を駆け上がるスピード出世だ。
 腕を磨き、引き抜かれた青山の割烹バーで働いていたとき、故郷の父親が亡くなった。広島へ帰ろうかと考えたが、父親の弟から「東京で頑張ってきたんだから、帰って来るな」と言われた。東京で本腰を入れようと決め、独立を考え始めた。
 すし屋ではなく居酒屋にしようと思ったのは、初期投資が安くて客層が広いため、つぶしが効くと考えたから。六本木の居酒屋で働きながら、昼間は物件を見て回った。31歳のとき、日本屈指の問屋街で銀行や証券会社が立ち並ぶ日本橋馬喰町で『酒菜亭』というお店を構えた。ところがランチは忙しくても、夜は閑散とする町。「あとで分かったけど、借りた物件はどんな店も1年くらいしか続かないいわくつきで、貯金を切り崩す状態でした」

▲飲み始めたら止まらなくなる名物の竹酒

■接客したくてカウンターを作ったけど

 7年目に大学時代のバイト仲間が「両国にいい物件がある」と話を持って来た。駅近で約15坪と手ごろな大きさ。古い居酒屋の「居抜き」だったが、スケルトンにして大改装。知り合いの内装業者に安くしてもらったが、内装費だけで1000万円以上かかった。費用は金融機関や公的機関などからの融資に加え、大学の先輩に紹介してもらった会社から工面した。

▲京風のおでんは1年を通して食べられる

 開業から24年が経つ。日本橋馬喰町では厨房が奥まった場所にあったため、お客さんとの接点が少なかった。両国では客の顔が見えるようにとカウンターを作った。ところが営業中は忙し過ぎて次から次へと入ってくる注文をさばくだけ。「なんのためにカウンターを作ったのか分からない」と嘆くが、それも繁盛の証しだ。毎年3月3日に店主催で開くゴルフコンペには80人からの参加者が集う。わずか25席の居酒屋のコンペに約3倍の参加者がいるのは常連客が多い証明だ。
 開店資金は完済し、コロナ禍での借金が少し残っているだけ。「かみさんとあと何年くらいお店を続けようか、という話はよくします。もう広島には帰る実家もないし、お客さんが来てくれるうちはこの両国で続けようと思っています」

▲店主兼オーナーの佐古下潔重さんは今年で63歳

◎店舗情報
店舗名:酒菜や 両国ゆず
住所: 〒130-0026 東京都墨田区両国2丁目17₋10杉下ビル1F
電話:03-3632-8735
アクセス:JR両国駅東口から徒歩1分
営業時間:月~土17:00‐23:00
定休日:日曜・祝祭日
席数:25席(カウンター9席、テーブル16席)※禁煙
HP:なし

※「四ツ谷の老舗たん焼店」に関する記事は以下より

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