店舗訪問

【店舗訪問 『西宮』(新宿区・荒木町)】ランチのすっぽん雑炊で新規顧客を開拓。夜は、手塩にかけた丸鍋ですっぽんを堪能してほしい!


美味しいすっぽん料理を1人でも多くの人に味わってほしいと願い、父と娘が力を合わせて営む『西宮』。ランチですっぽんを試してもらい、ディナーですっぽん料理と本格割烹を食べてもらう戦略を聞いた。

■当日に締めたすっぽんは鮮度抜群

 東京メトロ丸の内線の四谷三丁目駅で下車し、飲食店の並ぶ荒木町の『車力門通り』を少し歩くと『西宮』の看板が目に入る。目立つ気もするが、趣がある店構えだからなのか、高級食材のすっぽんをメインにしているからなのか、多くの方に「なんか入りづらかった」と言われるそうだ。「すっぽんのように気配を消しているのかしら」と2代目の西宮麻衣子さんは笑う。
 麻衣子さんの父、俊男さんは日本料理の老舗『なだ万』出の料理人の元で腕を磨き、31歳の時にすっぽん料理の店を開くことを決めた。が、「すっぽんなんてダメだよ」というアドバイスに素直に耳を傾け、焼き鳥やおでんを提供する店として1976年の8月に開店。賑わいを見せたが、「お金を数えたらまったく儲かってない」。初心に戻り、2カ月後にはすっぽん料理店にした。

▲『西宮』が「本当に美味しいと思う丸鍋」

 すっぽん料理の認知度が今ほど高い時代ではなかったが、芸術家の故・池田満寿夫さんが食べに来てくれたこともあり、関係者らに口コミで広がった。その後、すっぽんの美味しさを知る人が増え、景気が上向いたこともあり、80年代から90年代には2回転は当たり前、時には3回転という繁盛店となった。
創業から今まで人気を支えているのは生き血を飲めるほど新鮮な当日締めの丸鍋(すっぽん鍋)。唐揚げや刺身もできなくはないが、「本当に美味しいと思う丸鍋を堪能してもらいたい」。

■疲労感や二日酔いも解消できる

 麻衣子さんが店に立つようになったのは15年前。結婚を機に退社してからはのんびりしていたが、再び働きたいと思って俊男さんの手ほどきを受け始めた。現在は主にランチタイムを担当している。
「1回食べてもらえれば、気に入ってもらえる自信はある」と言う麻衣子さんは『西宮』の広報でもある。ランチにすっぽん雑炊を提供し、気軽に食べてもらえるようにした。
 遠方からの来店客が多い夜と異なり、昼間は近隣で働いている人や近所に住んでいる人が多い。客の6割方を女性が占めるのも夜との違い。お一人様がカウンター席に並び、座敷ではランチミーティングや女子会が開かれる。
 生姜のきいたすっぽん雑炊を食べると、体がポカポカ、シャキッとする。疲労感や二日酔いも解消できる。良質なタンパク質、必須アミノ酸、ビタミン、ミネラルが豊富に含まれるため、美容にもいい。女性が多くなるのも頷ける。
 敷居の低い昼に美味しさと効能を知った客が夜の丸鍋にはまったというケースも少なくない。麻衣子さんワンオペであるため、数十食も用意できないが、もう少しランチを続けて「夜」への間口を広げる。

▲まずはすっぽん雑炊を食べてほしい

■町田に新店舗を開業して新境地

 丸鍋は、丁寧に処理したすっぽんを高火力で3時間ほど煮込むため、ガス代の値上がりは頭痛の種。すっぽん自体も1.7倍くらいの値段になった。娘は父親に何度も値上げを進言したが、俊男さんは頑なに首を縦に振らない。伝統的な割烹料理をさほど高くない価格で食べてほしいという職人気質の父親に「困ったものです」と苦言を呈する麻衣子さんだが、目には優しさが浮かぶ。
 居心地の良さにも心を砕く。宴会の時間制限はなく、18時に来店した方が23時まで楽しむこともある。また、好みを尊重してワインの持ち込みも可能。そうした思いは客にも通じるのだろう。料理だけでなく、西宮家族との会話を楽しみに足を運び続ける人も多い。
 時代ととも変化もしている。常連客を大事にしつつ、集客力を高めるためにSNSで発信する準備を進めている。2025年10月には、東急電鉄田園都市線の南町田グランベリーパーク駅の近くに『凛』という季節料理店を開いた。麻衣子さんの旦那さんの実家1階を改装し、土日祝だけ営業している。「出稼ぎですよ」と俊男さんは自嘲気味に言うが、表情には充足感が浮かぶ。すっぽんを介した父娘の挑戦は続いていく。

▲すっぽん以外の料理も絶品(上段写真)。店内には座敷もある

◎店舗情報
店名:季節料理 西宮
住所:新宿区荒木町6番地 1階
営業時間:1130~1400(ランチ)、1800~(完全予約制)
定休日:土曜、日曜、祝日
アクセス:東京メトロ丸の内線の四谷三丁目駅より徒歩5分
席数:14

※「思い出横丁の『小料理まゆきち』に関する記事は以下より

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