雄大な自然と美味しい水、その土壌が育む豊かな食材。都心からも近く、移住先として大注目の山梨県北杜市に、暮らすように旅ができるコテージがある。
PHOTO by SHU.OGAWA
■フリーのハウスキーパーから
南アルプス甲斐駒ヶ岳のふもとに位置する山梨県北杜市白州町。名水の里として名高く、サントリーのウイスキー蒸留所があることでも知られる。国内屈指の美しい山岳景観を臨むのどかな里山に、一棟貸しのコテージ『白州橙屋』はある。オーナーの杉田秀子さんが2022年7月にオープンして、来月で3年目を迎える。
「ここは風の通りが良く、山から落ちてくる風が非常に柔らかくて心地が良い。これだったら、わざわざ遠くまでお越しいただいても、喜んでもらえるのではないかと。もう1つのわが家で休暇を過ごすように、ゆっくり過ごしていただきたい」
東京から車で約2時間半、コテージの名前の由来にもなった橙色の外壁が木々の緑と空の青に調和し、来訪者を温かく出迎えてくれる。リビングダイニングの大きな窓を開け放つと、ウッドデッキと庭が目の前に広がり、山から届く清々しい風が心と身体を解きほぐしていくようだ。
杉田さんは岩手県出身。スタジオのフォトグラファーを皮切りにイベント企画や食品・店舗開発などのキャリアを積んできたのは、「流れに乗る」フットワークの軽さから。2019年に旅先で、八ヶ岳のペンションを経営するオーナーと出会って意気投合し、「よかったら手伝いに来ない?」と誘われた。軽い気持ちで遊びに出かけた流れで働き始めたのは、「ハウスキーピングの仕事が意外と向いていた」からという。
ペンションやコテージが数多い八ヶ岳などのリゾート地域には、フリーランスのハウスキーパーの需要が多い。近隣の宿の清掃業務に本格的に取り組み始めた矢先に、新型コロナウイルスが発生。仕事がゼロに近い状態になったが、無人対応で非接触の貸しコテージだけは、客足が途絶えなかった。思い立ったら即行動が主義の杉田さんは「だったら自分もやってみよう」と、2020年暮れから物件を探し始め、翌年8月には現在の物件を決めた。
「八ヶ岳と比べて、場所的には正直言って不便。国道20号は、甲州街道で新宿から白州まで繋がっていますが、そこから一本入るとバスなどの交通機関はないし、JRの駅からも遠い。八ヶ岳でもいくつか物件を見ていたので、ここの優先順位は低かったのですが、建物がすごく良い状態だったのが直感で分かったんです。左右も空き地でゆったりしていて静かで、お客様がくつろげるイメージができました」
■客目線の破格の割引プラン
アクセスをカバーするために始めたのが、客の4割が利用する無料送迎。指定された最寄り駅で待ち合わせをし、要望があれば道の駅やスーパーにも立ち寄る。レンタカー利用の場合は宿泊料を10%割引にしている。元々1人1泊8500円(税別)と相場よりも安い上に、足代までサービスするのは破格だ。
「うちは旅行サイトなどに登録をしていないので手数料がかからない。それを利用したと思って、その分をお客様にサービスとしてお戻ししているつもりなんです。ここまで遠くにお越しいただいて、特に週末だと渋滞してやっと着いたのに、1泊で帰るのは慌ただしい。お客様に負担なくゆっくり連泊していただきたい、という思いを込めています」
表立った宣伝活動を行っていないため、客の多くが「友人の友人がSNSをフォローしていた」「知人の紹介」などで橙屋と巡り合う。
「無人対応で1棟まるまるお預けするので、最初の1年はつながりを大切にして、慎重にお貸ししていました。今はリピーターのかた、新規のかたに関わらず、メールのやり取りを通じて柔軟に対応しています」
2023年5月からは、ペット同伴の宿泊プラン(小型犬、猫)を始めた。地元のペット雑誌で紹介されると、ペット連れの客の間で、口コミで広がった。
「これをきっかけに、お客様の流れが完全に変わりました。韮崎から白州エリアは宿が少ない上に、ペットの受け入れはキャンプ場しかなかった。料金は1匹2000円ですが、宿代にプラスしてもそんなに大きな負担にならないとお考えのようです」
貸しコテージの運営だけでなく、ハウスキーピングの仕事も続けている。八ヶ岳エリアで同じくフリーランスで働く仲間たち数人とともに、清掃チームを発足する予定だ。
「管理物件も増やしていきたいのですが、最終的に掃除をする人がいないと宿は回せない。だからプロ意識を持った人材が重要。地域の清掃レベルを上げ、育成と雇用のために組織化する必要があると感じました」
▲コテージの周辺を散策し、白州の大自然を感じる
■新たな使命「能登に宿を作る」
杉田さんがハウスキーピングにこだわるのには、もう1つ大きな理由がある。能登の復興だ。ことし1月1日に発生した能登半島地震のボランティアで現地を訪れた際、東日本大震災で被災した地元・岩手出身の杉田さんは、当時と比べてあまりの復旧・復興の遅れに愕然とした。
「いま、能登は工事関係者で宿がいっぱいで、宿が足りないということは、復興作業が進まないということを意味しています。受け入れ先の宿を作ることと人材育成は、セットで急務です」
これまで月に1回、定期的に現地に通い、石川県羽咋郡の志賀町を拠点に宿のヘルプに入り、時間を見つけては奥能登へも手伝いに行っている。杉田さんが自由に白州と能登を行き来できるのは、橙屋が無人対応のコテージで、杉田さんの不在時は仲間が清掃に入ってくれるからだ。
「本格的に能登との二拠点生活の準備を始めました。引き続きハウスキーピングのお手伝いをしながら、能登での宿開業のために動いています」
清掃業務と宿運営、そして3.11での被災。3つの経験が、能登の復興という新たな使命に生かされていく。
◎店舗情報
施設名:貸しコテージ 白州橙屋(はくしゅう・だいだいや)
所在地:〒408-0314山梨県北杜市白州町大坊1208-22
最寄りIC:中央自動車道須玉IC、韮崎IC、小淵沢ICなど
最寄り駅:JR中央線・小淵沢駅、日野春駅など
建物面積他:家屋75平米・平屋/2LDK・個室和6畳×2、ウッドデッキ付き
定員:基本2名(※増員は相談可)、ペット可(小型犬、猫=10㎏未満)
基本料金:1人1泊 8500円(税込9350円)
※連泊、長期、レンタカー利用など割引あり。各種プランもあり。詳細はHP参照
※冬期は休業(1月~3月予定)。ただし長期レンタルは通年利用可
チェックイン、チェックアウト:13:00、11:00
連絡先:直通090-1923-8648
メールアドレス:daidaiya@mi-umi.jp
SNSアカウント:https://www.instagram.com/hakushu.daidaiya/
予約サイト:https://www.mi-umi.jp/daidaiya
岩手、能登の震災リポートサイト:https://note.com/shudaidaiya
※フォトグラファーでもある杉田さんの写真と文章で、自身の被災経験と能登の現状を伝える。
※「創業40年の東京にある『広島』」に関する記事は以下より
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