四谷三丁目駅近くの「靴のクリーニング店」の売り物は靴磨き。スニーカーに魅了された店主が丹念な作業で営む。
🔳中学生時代からスニーカーにはまる
いらっしゃい！
道路に面したガラス扉の向こうに店主の宮川篤さんがスニーカーを洗う姿が見える。時に力強く、時に優しく丁寧に。スニーカーのコンデションを確かめながら洗浄方法を決め、店名には『くつみがき』とある。革靴はもちろん、スニーカーも靴磨き感覚で一足一足仕上げていく丹精さが売り物だ。
靴に魅入られた半生を送ってきた宮川さんが最初に興味を持ったのは中学生の頃。空気や液体がソールに入ったスニーカーを同級生に見せられ、驚きとともに虜になった。お小遣いで買える中古品を自分できれいに洗って履くようになった。大学で油絵を学んだ後、スニーカーのデザイナー職に応募。が、デザインを専門に学んでいない。そこで書き溜めてきた靴のスケッチでアピールした。「中学校の頃から靴を夢想し、落書きのようにノートに書き溜めていたんです。これなら売値は３万かな、なんて（笑）。それを面接で提出しました」
見事合格してシューズ・デザイナーになったが、数年後、とにかく安くしてほしいという取引相手のオーダーに困惑。冷え込む市場に不安を抱いて2014年に退職し、ニューヨークに渡った。本場でスニーカーのクリーニングも含めた知識を習得し、渡米3カ月後に出会ったのがイタリア系アメリカ人の家族が経営する靴磨きと修理の店『チレミイ』。同店で約半年の見習いを終えて帰国。靴クリームメーカーで勤務しながら開業を計画した。
🔳消費増税が客足を鈍らせる
店舗探しは、「靴磨き？ なんだ、それ？」と家主の理解が得られずに難航した。駅近くが理想だったが、ようやく見つけたのが、東京メトロ副都心線の雑司ヶ谷駅から少し離れた住宅街の店舗。17年の「くつの日」（3月15日）、許しを得て本家オーナーの苗字を冠した店舗の開業にこぎつけた。周辺の住人が土日になると靴磨きに出してくれるかもしれないという思惑は半分あたり、徐々に、「スニーカーもきれいにしてほしい」という依頼が増加。中古で買った自分の靴をきれいにしてきた経験をもとにクリーニング店や資材会社の講習を受けて知識を増やし、客層を広げた。勢いを削いだのは19年の消費税引き上げ。「靴をきれいにしてもらうお金は最初にカットしますよね」と落ち込みもしたが、店舗の賃貸契約更新を契機に20年2月から現在の店舗へ移った。
🔳座右の銘は「ベスト・ワーク、ベスト・プライス」
新店舗でも最初は「靴磨き」を前面に押し出していたが、新型コロナウイルス禍によって外出需要が減り、革靴の利用が減少。ともなってスニーカーのクリーニングに対する需要が高くなり、「靴磨き & スニーカー・クリーニング専門店」と謳うようにした。現在は、クリーニングだけでなく染め直しや色の修復も手掛け、「足に合っているからキレイにして履き続けたい」、コレクターからは「昔の物をキレイにしてほしい」という依頼が舞い込む。「信用していただけるのは嬉しいのですが、難しい依頼が増えて……。恐怖を抱くようになっていますし、靴が嫌いになりそう（笑）」という本音にもひたむきさがにじむ。同じ製品、同じような汚れであっても以前のクリーニング方法が通用するとは限らない。ピカピカにしすぎて依頼主のイメージを損ねるわけにもいかない。勢い、一足にかける時間が長くなるが、「個人ですから満足できるまでやりたい。そうしてやっとホッとできる」ときっぱり。
大事にしているモットーはチレミイの店主から聞いた「ベスト・ワーク、ベスト・プライス」。店の外を見ていると顧客が通りすぎることがある。自分がきれいにした靴をお客さんが履いているのを目にすると、合格だったのかな、と思う。「それがベスト・ワークかもしれません」と宮川さん。技能を高めながら靴とともに歩き続けてきた。いつか、学生時代に落書きを楽しんでいた頃の気持ちで再び靴を作ってみたいと考えている。
ありがとうございました！
◎店舗情報
店舗名：くつみがきのチレミイ
（amazing sneaker cleaning in Tokyo）
アクセス：東京メトロ丸の内線四谷三丁目駅より徒歩4分
住所：東京都新宿区四谷2-14-13 前田ビル1F
公式サイト：https://chillemi-shoe-shine.business.site/
営業時間：1100～1700（要確認）
定休日：日曜日～水曜日
SNS：インスタグラム https://www.instagram.com/kutsumigaki.no.chillemi/?hl=ja
※「荒木町にあるかき氷店」の記事は以下より
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