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店舗訪問

新国立競技場の近くに佇むレストラン、Koru。『アースフード』が約束する心身のリフレッシュ‼


聞いてみなければ分からないことは少なくない。「神さま」と呼ばれる料理人の教えを継ぐ人が意外と身近な場所にいたりもする。連載3回目はイタリアンをベースにした料理とハーブ、そして手作りのマフィンとベーグルを楽しめる『Koru』を訪問。切り盛りする高山夫妻に思いを聞いた。


🔳思いを具現化し、伝えるために生み出した新ジャンル

 いらっしゃい!

 新国立競技場を背にしながら外苑西通りを徒歩で北上すること10分弱。白壁の『Koru』(コルー)が姿を現す。周囲に飲食店が少ないため、「オアシスみたい」と感じる人もいるだろう。むしろ、店から送り出された後にその思いを強めるかもしれない。高山聖子さんが醸し出す雰囲気と高山康輔さんが作り出す料理は潤いに満ちているからだ。

 1985年にイタリア史上初のミシュラン三ツ星を獲得し、「現代イタリア料理の神さま」とも言われる故グアルティエーロ・マルケージ(2017年12月没)の下で1年を過ごし、世界屈指のラグジュアリーホテル、『マンダリン ホテル 東京』でスーシェフも務めた康輔さんが独立したのは2020年のことだった。

 ただし、「飲食店を開きたい」という強い思いを持ち合わせていなかった康輔さんは言う。
「飲食店はいくらでもあるし、結構ハードな仕事。僕はそれほどストイックではないし、すごい腕の持ち主だとも思っていません。飲食だけで、付加価値というか差異を生み出すのは簡単ではありません」

 一方、「最近、楽しくなさそう」、「お店を出しても成功するよ」と康輔さんを見ていた聖子さんには夢があった。
「結婚前から、お店を持ちたいとずっと考えていましたが、最初の子供ができた時に『無理かな』、『もしかして一生無理かな』と思うようになっていきました。ハーブのことを勉強して細々と準備はしていましたが……。それがあの時、『パパがお店を出せば一角で自分がやりたいことができるかも』、『私にも手伝えることは絶対にある』、『大変でも大丈夫!』と思えました」

▲Koruの内観。窓が多くあり、開放的な空間になっている

 人生の十字路を前にして少し迷っていた康輔さんは聖子さんと仕事でも合流し、店を開くという道を歩むことになった。
 物件探しでは、現在のエリアは考えてもいなかったが、他の候補を下見した帰りに張り出されたばかりの物件広告が目に入る。しかも、「2人での営業だからといって出来合いの料理を出して終わり、というのは絶対にいやでしたし、(聖子さんが)ハーブに関するカウンセリングもするから駅前は考えていませんでした。そもそも、自分たちが居たい場所にしたい」という康輔さんの思いに、いや2人の思いに合致する物件だった。
 一連の流れは、人生にはタイミングがある、と思わせる。
 同時に、タイミングは優しいばかりではない。
 
 オープンしてわずか5日後、新型コロナウイルスのまん延にともなって緊急事態宣言が行なわれた。
「食べきれなかったものをお持ち帰りできるようにお弁当箱を用意していたので、どうにかテイクアウトに対応できました。でも、3年間ですごいマイナス」(康輔さん)
 コロナ禍が落ち着いたと思ったら、次は材料価格高や燃料価格高。2人が提供しようとする料理の方向性も重荷と言えなくない。
「提供したいのはオーガニックというか、ナチュラルなもの。体に優しいご飯かな。卵は平飼いにわとりのもの、野菜は安田農園(東京都)さんの露地栽培野菜を使っています。ですから、副菜に使われる野菜は季節に合わせて変化します。自宅では難しいでしょうが、来店が心身を立て直すきっかけになってほしい」と聖子さんが言えば、康輔さんは「実はイタリアンはシンプル。提供するのは素材を活かすイタリアンの技術をベースにした料理であり、2人で考え出したのが『アースフード』という新ジャンルです。でも難しく考えず、『なんでもあり』と思ってもらってもいい」と付け加えた。

 耳慣れないアースフードという言葉から料理の姿や味は想像しづらい。しかし奇しくも、「『真の料理は形ではなく、形から来るものである』ということです。どういう事かと言うと、まず素材が第一であるという意味です。日本人は素晴らしい素材を使い、その素材を大切にする事を知っている」と晩年の故マルケージは言っている(『料理王国』第253号)。
 康輔さんの料理はまったくブレていないようだ。

▲色彩豊かな『アースフード』があなたを楽しませてくれる

🔳訪れるすべての人に優しい『アースフード』

 アースフード、つまり「地球食」というネーミングはお店の基本コンセプトも体現している。
「誰もが来やすく、美味しくて楽しめるお店にしたい。2人はそういう性格」
 と言って康輔さんが笑うと、聖子さんも続ける。
「いろいろな食の好みを持った人々が一緒に食卓を囲めるお店にしたい。子供連れのママにもどんどん来てほしい。先日、初対面にもかかわらず、『ママが食べている間はお子さんの面倒をみますよ』と隣のお客さんが声を掛けてくれていました。ほんと嬉しかった」
 来店者の歓待に関しては、康輔さんが「話すのは不得意」と言うこともあり、聖子さんに負うところが多い。だが、外国人の方には英語を解する康輔さんが丁寧に対応。Googleビジネスプロフィールに感謝の外国語が並ぶ所以である。
 お店を後にするお客さんにはどのように思ってほしいのだろうか?
「『また来よう』くらいに思ってくれればいいです」と康輔さんが言うと、聖子さんは「パパはカジュアルな感じで答えると思った」と悪戯っ子みたいな表情を浮かべ、「『第二の家』だと思ってほしい」と続けた。似ているようでまったく同じでもない2人の感性や人間性が誰でも受け入れ、しかも居心地のいい空間を生み出しているのかもしれない。

 こだわりと優しさを大事にしてきたKoruには新たな地平も見えている。聖子さんオリジナルのハーブティーとマフィンやベーグルを他店で販売する話が舞い込んだ。子供を送り出すことで忙しい聖子さんに代わり、早起きした康輔さんが聖子さんのレシピに従って毎朝、粉をこねて焼き上げている。
「パン屋さんですよ、もう」と大変そうな康輔さんだが、わくわく感が隠せない。

「(店名のKoruは)未だ展開しきらない渦巻状のシダの新芽を指すマオリの言葉である。『新生』、『成長』、『力』、『平和』の象徴。『全部私たちの想いが詰まっていると思って、この名前にしました』」と店舗のInstagramにはある。

 オーガニックな食事で身体をデトックスできるだけでなく、ポジティブな心持ちになれる――。次の一歩を踏み出す活力を得られる場所だ。

 ありがとうございました!

▲康輔さん(左)の料理と聖子さんのハーブを楽しんでほしい


◎店舗情報
店舗名:Koru(コルー)
住所:東京都新宿区内藤町1-9 塚田ビル 1階
アクセス:国立競技場駅より徒歩8分、千駄ケ谷駅より徒歩9分、四谷三丁目駅より徒歩10分、信濃町駅より徒歩11分、新宿御苑前駅より徒歩12分
営業時間:ランチ/1100~、ディナー/1800~2100(ラストオーダーは閉店1時間前)
定休日:月曜日、火曜日(インスタグラムで要確認)
席数:12席(カウンター/4席、テーブル/8席)
禁煙・喫煙:全席禁煙
SNS:https://www.instagram.com/koru7778

参照:
https://cuisine-kingdom.com/gualtiero-marchesi

パスタ自慢の料理店の訪問リポートは以下より

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