店内に貼られた「メンバー募集」のポスターに賑わいのカギが。あえて串に刺さない名物の鳥焼きにも納得のわけがあった。
🔳焼き鳥ではなく「トリヤキ」
いらっしゃい!
茅ヶ崎市の南部を東西に貫く通称「鉄砲道」に立つ看板の下に、夕方から近所の常連客が集う。海水浴場サザンビーチも近く、茅ヶ崎駅からは15分ほどと距離があるが、代表の瀧敬太さん(39)は開業前に物件を見て「駅からぎりぎり店目当てに歩ける距離」と判断。賃料が値ごろだったこともあり即決した。今年7月に10周年を迎え、コロナ禍も乗り越えて安定した売り上げをキープしている。
その原動力の一つが団体客だ。開業前に周辺を見分して小学校、中学校が近いことを知り、スペイン料理店からの居抜きで借りた店内に団体用の座敷をすえた。これが当たり、野球やサッカーチームの活動後の親子の集まりが毎週のように入る。10万円単位の宴会が月商の20パーセントをたたき出す柱になった。店内にはおすすめメニューの間に、チームの「メンバー募集」のポスターが。宴会は最大25名ほどで開けるが、人数、メニュー、開始時間などのニーズにも柔軟な対応をしている。店の前には4名用のオープンエア席もあり、年間売上のピークを迎える7、8月にはビーチやBBQ帰りの客でなかなか取れない人気という。
メニューも特徴的だ。焼き鳥はあえて串に刺さずに皿でサーブされる。理由は2つ。新鮮さの保持と作業の効率化だ。福島県出身の瀧さんは茅ヶ崎市の大学を卒業後に飲食を志して都内のイタリア料理店で修業を積んだあと、「雰囲気が好き」という海辺の街に舞い戻る。駅前の焼き鳥店と沖縄料理店で計5年ほど働いたあとに開業に踏み切ったが、そこで焼き鳥ではなく「トリヤキ」にしたのは、焼き鳥店時代の経験からだ。
焼き鳥店は売上に比して仕込みの負担が大きい。昼前から開店まで、店員総出で串を通す作業が続く。そこまでするのに、女性客は串を外して箸で食べている。むなしかった。指で取って串にさす作業を経ると、作業するスタッフの体温によって、鮮度が落ちることにも気づいた。朝仕入れてそのまま冷蔵庫に入れたほうが新鮮なまま客の口に届く。「特に串に刺すことでつぶれてしまうハツなどの内臓系はこちらのほうが絶対におすすめです」。実際に口にすると張りがあり、歯応えが良く新鮮だ。
トリヤキにはこれ、と言うのが焼酎のお茶割。青汁、玄米など10種類のお茶が揃い、老若男女に人気。キープボトルがあれば、396円(価格はすべて税別)でデキャンタのお茶を数種類から選んで楽しめる。
🔳時給2000円近いアルバイトも
お通しはない。代わりに選べるのは4種類の「0円メニュー」。前日に使いきれなかった素材を調理して無料で出す。働いていた沖縄料理店の「お通し無料」を一歩進めたサービスだ。よく出る通常のメニューはつくねが一番人気の熟成肉のトリヤキのほか、胸肩肉を使ったチキン南蛮、ゴボウのから揚げ、ささみの天ぷらなど。メニューは宴会用に子供も意識して組み立てている。
子供連れの宴会が多いだけに店員の気遣いもきめ細かい。常に客の態度や会話の雰囲気を読みとり、騒がしい宴会に眉をひそめそうなシニアには積極的に話かけてフォローするアルバイト店員の姿も。「料理や飲み物(の提供の仕方)を覚えてもらえるのは当たり前ですが、お客さまへの向き合いも重視して評価しています」と瀧さん。1100円台からスタートする時給は毎月見直され、2000円に迫るベテランも。ゲームのパラメーター感覚で若者の気持ちをくすぐる。アルバイト募集は紹介が主だが、まかないのおいしさも評判になり、現在10人ほどの定員は順番待ちの状態という。
開業10年、瀧さんの今年の目標は2店舗目の出店だ。以前の従業員に店長を任せることは決まっているが、業種業態は未定。タイ料理などあまり競合相手がいない分野をイメージしているが、地元の同業者の妨害をしたくないという思いから、慎重に見極めたいと話す。ただ、どんな店になっても地域のニーズを見越した経営と工夫によるチャレンジは続いていくはず。「人と人の距離が近いのが茅ヶ崎の魅力。お年寄りから子供まで笑って過ごせる店が目標です」。そう話す瀧さんの柔和な笑顔もそのまま店の魅力と言えそうだ。
ありがとうございました!
◎店舗情報
店舗名:トリヤタキ
住所:神奈川県茅ケ崎市東海岸南2-11-6(JR東海道線茅ヶ崎駅徒歩15分)
営業時間:1600~2300(ラストオーダー:2200)
定休日:水曜日
支払い方法:カード可
席数:42席/禁煙
SNS:https://www.instagram.com/toriyataki/(インスタグラム)
※「ラム酒専門バー」に関する記事は以下より
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