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【店舗訪問】こだわり過ぎないこだわりと「ワンチーム」で地域の人気店に定着(@練馬区関町)


先代の味を受け継いで15年、通し営業で夜まで客が途切れない。のどごしのよい蕎麦を軸にした多彩なメニューが並ぶ。職人肌の店主と陽気な店長夫婦とスタッフで組むチームの強みがそこにはあった。

■そば粉にこめた2代目の思い

「いらっしゃいませ!」に始まり、「お客様がお帰りです!」と元気な声に送られる、実に気持ちよく過ごせる時間がそこにはある。アルバイト店員が小気味よく動くフロアの奥の厨房で、一見強面の職人肌の店主と明るい笑顔の店長の夫婦が多彩なメニューをさばく。西武新宿線で西武新宿から約20分。武蔵関駅南口から5分ほど歩いた商店街の一角に店はある。店名は『板蕎麦 山葵(わさび)』と、杉で作った浅い箱に盛り付ける看板商品に、蕎麦店のすべての基本である薬味を合わせた。先代が開いた『信州そば 天竜』から数えて開業58年目を迎える。

 前身の頃、店の周囲には農作地が広がり、店の前からは富士山がきれいに見えたというが、西武線沿線の宅地開発とともに環境は変わった。大小の病院や会社も抱く宅地化も進んだ15年前に2代目の店主、吉田征弘さん(48)が関西での蕎麦、関東での和食修行を終えて跡を取り、改装とともに改名する。長く地元のそば粉店のものを使っていたそば粉も吟味して、2代目独自の風味を追求。蕎麦と出汁にこだわりつつ、それぞれが個性を出しすぎない渾然一体の味をめざした。現在は神奈川県小田原市の業者のそば粉を使っているが、いまでも陽気や気温に合わせて毎日麺を打ち、改良を怠らない。「こだわり過ぎないのが、こだわり。理屈でなく普通に美味しく食べられる味を目ざしています」

▲のどごしがよく、適度な香りのある板蕎麦はいくらでもいける

■柔軟さとこだわりを強みに

 メニューにもその考えが反映されている。季節に合わせた旬の素材を生かし、冬ならば温かく、夏ならばさっぱりと食べられる商品を常に開発。吉田さんと店長の綾子さん夫婦が考案した品をアルバイトや常連、友人の意見を聞きながら柔軟に改良していく。蕎麦店の定番のだし巻たまごは店主の幼なじみの酒飲みの意見を容れて「わさび入だしまきたまご」も考案、人気商品の一つになった。カレーうどんの下にとろろ飯が隠れた「トロめしカレーうどん」はスタッフ用のまかないから、夏の人気商品「夏野菜のぶっかけそば」や「鶏ささみの天ぷら板蕎麦」は、カロリーを抑えたいという女性アルバイトの意見から生まれた。

 柔軟さの一方で、魅力を増しているのは小さなこだわり。薬味には鬼おろし天ぷらぶっかけに使う粗削りの大根を添え、山葵は茎わさびと生わさびのブレンドを使う。店内のレイアウトはあらゆる客層に合わせるように設計され、夕方からは豊富なおつまみと締めの板蕎麦を目当てに一人客、カップル、二世代三世代のファミリー客が集う。団体席を除く25席がランチタイムには最低でも2回転、火曜や水曜の週中の夜はドリンク比率が増える「居酒屋客」で3回転することもある。その間の午後も、客不在の時間帯はほぼなし。「昔は通し営業が当たり前。いつでも開いているというのが本来の蕎麦屋ですから」というのも、多様な働き方に応じた店主の心遣いの一つだ。

▲冬季限定の「鶏ときつねの生姜あん」(上写真)と夏に一番人気の「夏野菜のぶっかけそば」(下写真)

■サイン色紙の主は女子サッカー選手

 店内にはサイン色紙が貼りだされているが、グルメ番組の芸能人ではない。活気のある店の雰囲気を作り出す女子アルバイトは、改装開店した15年前から代々、国内で屈指の実力を持つ早稲田大学ア式蹴球部(サッカー部)の女子部員が受け継ぐ。色紙は店を巣立った歴代のアルバイトのもの。昨年は2人、今年も1人、女子プロリーグ「WEリーグ」選手を生んだ。店長の綾子さんによれば、彼女たちは等しく「元気があって状況判断に優れているので、助かっています」。毎年、大忙しになる大晦日には他の部員も手伝って乗り切り、部のビッグイベントである早慶戦には店休日にしてスタッフともども応援にかけつける。
 アルバイトは、早大女子サッカー部員の他にも近隣の学生やシニアなど多彩なメンバーが10人近くいる。冬には日帰りスキーにも出かけ、閉店後の飲み会も。「働きたくなる雰囲気を作りたいし、レクリエーションも僕自身好きなので」と征弘さんが言う。そうして育んだコミュニケーションがメニューの開発や改良と一体感にもつながる。それも仕事熱心で人柄の良いオーナー夫婦のなせるわざ。夫婦を中心に元気いっぱいのワンチームの店は、今日も幅広い層の客でひきも切らない。

▲わさび入りのだし巻き(上写真)と胸肉を使った鶏のから揚げ(ハーフ/下写真)

◎店舗情報
店舗名:板蕎麦 山葵
住所:東京都練馬区関町北1-15-8
電話:03-6794-1111
アクセス:西武新宿線武蔵関駅南口から徒歩5分
営業時間:火~日:11時~21時半(ラストオーダー21時)、月:11時~14時半(14時)
定休日:祝ほか(詳細はインスタグラムで確認)
席数:32(団体席ふくむ)
禁煙
インスタグラム:https://www.instagram.com/itasobawasabi53/

※「明治から続く老舗そば店」に関する記事は以下より

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