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鳥居の前のくつろぎの「宝箱」 カフェの特性生かし客単価アップ(@杉並区天沼)


あえて商店街のはずれを選んだのは理由がある。ゆったり、静かに、丁寧に。食事とともに時間を売るカフェらしいカフェをめざし、開業15年目を迎える店主が作った「宝箱」をのぞいてみた。

■どんなニーズにも、どんな時間帯にも

 一見、雑然として見える黒板に、多様な顧客を迎え入れるしかけがある。「おつまみ」「特別なお酒」「おやつ」「カレー」「パスタ」「まかない」「軽食」「気まぐれ」に、自家焙煎のコーヒー、季節のお酒、店主の故郷から仕入れた銘酒まで。仕事の間に1人でランチ、午後に友人と軽食、休日には夫婦で昼飲みと、どんな時間帯のどんなニーズも受け入れる懐の深いメニュー構成だ。

 JR中央線の荻窪駅から7分ほど、天沼八幡神社の目前にある『kafe arkku(カフェ・アルック)』は個人客が主体で、年齢層も性別も職業もばらばらだ。「コーヒー、日本酒、音楽、食事と、いろんな目当ての人がいて逆に客足が読めない。ただ一つ言えるのは、ワンオペで時間がかかるので、サラリーマンがいないこと」とオーナーの木立(きだち)伸さん(63)。音楽好きで映画好き。青森県津軽地方出身の物静かな趣味人のキャラクターが、そのまま店の空気に通じる。お茶やお酒を飲みながら、誰にも邪魔されず自分だけの時間に浸るにはうってつけの空間だ。 

▲カウンターもふくめて12席あるが、1人か2人席が基本

 開業は東日本大震災前の2011年1月。両親の看病を機に大学卒業後に数社を渡り歩いたアパレル業界を「卒業」し、若い頃から夢抱いていたカフェを計画した。大学時代に成城学園駅近くの店で3年働いたアルバイト体験が原点。チェーン店もふくめ純喫茶全盛の中では異色のバリを意識した「~系カフェ」的な店で、カレーにパスタ、夜はお酒とメニューもなんでもありだった。調理はそのアルバイト時代の学びをベースに、テレビ、配信、料理本などを会社員時代から徹底的に研究して独学で身に付けていた。

■ビクターのステレオにライブも

 開店当時は北欧系のカフェブームでもあり、ありきたりの店名は嫌だとフィンランド語で「箱」を意味する店名を考えた。が、物件探しには一苦労。住居兼店舗の賃貸物件をカフェのメッカ西荻窪を中心に探したが、「商店街のはずれでひっそりと」という希望にはなかなか合わない。そんなときに仲介業者にすすめられたのが、隣駅の荻窪の新築物件。予算オーバーだったが、希望の条件には合う。開業支援に積極的な地銀の融資を受け、決断した。

▲主力商品のカレーは常に3種類を用意している

 上階が住居の15坪ほどの1階の店舗スペースに200万円ほどでベンチ、カウンター、厨房を据え付けた。当初は店名の通り北欧系のテイストを意識したが、もともとはニューヨーク好き。徐々に多国籍な雰囲気になった。昨年、実家にあったビクターのステレオを修理して設置。和洋の別なく500枚ほどのレコードも楽しめる。偶数月の最終土曜には、男女デュオのボサノバギターライブも開催。参加料は公演につき一品の注文と投げ銭。固定客も多い。

 メニュー板を目で追うと、「カレーかパスタかプレートにコーヒー、デザートも」という気分になる。メイン、ドリンク、デザートの売上比率は4・4・2。客単価は1,000円台後半にもなるが、木立さんによれば、それがカフェらしさでもある。時間つぶしや知り合いとのおしゃべりなら喫茶店だが、カフェは読書や思索など、思い思いの時間をすごす場所。フランス人は引っ越しの条件として近くに気に入りそうなカフェがあるかを重視するともいう。いわば空間を時間で買うのがカフェ。美味しい料理を食べてゆっくりとコーヒーを飲んで2時間を過ごし、映画1本分と考えれば高くはない。「客単価が高めである以上、カレーにしてもパスタにしても専門店に負けない味をめざします。先日、ガパオライスをタイ人が食べて『とても美味しい』と言ってくれたのがうれしかったですね」

▲プレートの定番ガパオライス(上写真)やパスタの人気作ジェノベーゼには独特の工夫が

■食材ロスをふせぐ工夫を持ち味に

 このほめ言葉がうれしかったのは、そこに工夫の一端があったからだ。ガパオはバジルの意で、本来はフレッシュバジルが命の品。しかし食材ロスを考えると、新鮮な生バジルはなかなか保管できない。そこでパスタのジェノベーゼ用に作ったペーストをソースにして添え、ライスと混ぜ合わせることで、本場に近くなおかつ独特の味を出せた。それが本場の舌を満足させたのだ。他にもタイカレー用の焼き鶏つくねをジェノベーゼに合わせるなど、意外性のあるメニューも多い。「え、そうなのという驚きもカフェならでは。コーヒーに焼き餅などのマッチングも楽しめるようにしています」
 そんな余裕が増したのも、コロナ禍を経験してからだ。開業から10年近く、ローンの返済もあって休みは週一、深夜0時まで開けていたが、時短をきっかけに週休2日、22時閉店に変更した。空いた時間でリフレッシュする分、仕事の効率も上がり、インプットの時間も増える。売上はコロナ前後で変化はないという。
 店探しに苦労したというのが嘘のように、この場所でしか成立しなかったのではないかと思わせるのは、「商店街の真ん中ではなくはずれでゆったりと」いうコンセプトが実現したから。フィンランドでは海賊の宝箱の意味でも使う店名の扉を開けて、今日ものぞいてみ
たくなる。そんな店だ。

▲豆の個性がストレートに出るエアロプレスで淹れたコーヒー(上写真)と地名からネーミングされたあまぬまロールで一息(下写真)

◎店舗情報
店舗名:kafe arkku(カフェ・アルック)
住所:東京都杉並区天沼2-17-12
電話:050-5438-2276
アクセス:JR中央線・東京メトロ荻窪駅北口から徒歩7分
営業時間:火~土:12時~22時
定休日:月・日・祝
席数:12
禁煙
HP:http://arkku.exblog.jp/

※「山里定食でランチは満席」に関する記事は以下より

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