京都市内でも人気の住宅街、桂。大阪にも京都の中心部にもアクセスの良いこの町に2024年3月、瀟洒な店がオープンした。オーナー・シェフはフレンチ系の料理歴15年、大箱での店長兼料理長も経験した人物。修業経験はゼロというその腕前の背景と気概を聞いた。
■住宅街にマッチしたおしゃれ店舗
店は阪急桂駅東口から徒歩5分ほどの住宅街にある。オーナー・シェフ奥田優さんの母方の祖母が住んでいたという民家を改装したもので、ブルーグレイの壁に、赤いヴェスパと黄色のルノーが目を引く。『オクダ料理店』を訪れたのは2024年6月末のことだ。
最初にいただいたのはハモ。夏の京料理には欠かせない魚だが、奥田さんは、フレンチのシェフらしからぬ手際でハモを骨切りすると、手早く調理し、根セロリのムースを添えた。ふわっとしたソースとジュレ、ぷりっと引き締まった弾力のあるハモ。新鮮さが際立ち、久しぶりにおいしいハモをいただいた。
料理はカウンターを挟んでほぼ対面で準備される。奥田さんの手際を眺めながら、カウンター越しのおしゃべりするのも楽しい。店主の人柄だろう、店は格好良いのに居心地がよく、どこかホンワカと温かい。
■いきなり現場に配属で
すっかりフレンチのシェフといった佇まいの奥田さんだが、実は料理学校に通ったことも、有名店で修業したこともない。料理人としての契機は、アルバイトとして働いていた飲食店で、正社員になった25歳のとき。店は当時流行していた「フレンチ・イタリアン」のような業態で、入社と同時に料理人の一人が異動。その後任のポジションに配置された。
ムチャとしか思えない状況から逃げ出さなかったのは、料理を楽しいと思えたからとしか言いようがない。また今も「良きお兄さん」と慕う、1歳年上の先輩料理人との出会いも大きかった。先輩からさまざまな実践的アドバイス受けて、料理にのめりこんだ。７～8年が過ぎると、店で出すメニューを任され、10年がたつ頃には素材をどう扱えば、どうなるかもわかってきた。独立を意識しはじめたのは30代半ばだというが、実際に退職したのは40歳。2022年末のこと。1年と少しで開業にこぎつけた。
■「オクダ料理店」がめざすのは
名字を使ったシンプルな店名にしたのには、奥田さんなりの思いがある。
「料理のジャンルがね、“オクダ料理”なんです。そのうち何料理の店ですか？ と聞かれたら、うちは“オクダ料理”の店ですって言いたいから」
料理を正当に学んだわけではない。でも自分の料理はちゃんとある、店名にはそんな気概も込められているのだ。
店はサービスも好きな奥田さんらしく、カウンター向こうの調理台で調理する手許が割烹のようによく見える。お客さんと「今日、この食材ありますけど、どうしましょう？」といった掛け合いも楽しめれば、と笑う。
また、テンポよく料理を提供することは、おいしく食べてもらうための大事な要素だとも。待たせすぎると、人はおいしさを感じられなくなってしまう。昨今は、それが低評価として世に広まるのも早い。料理のプロセス、待ち時間も食事の一部として楽しんでもらえる工夫の一つとして、調理台を見せているのだ。
■家賃がかからない分、食材のグレードに配慮
立ち上げ時の経費は、内外装3に対して什器1程度。選んだ厨房器具はごくシンプルだが、反省点は冷蔵庫だ。予想より小さく、ものの取り出しに時間がかかることも。積み重なると料理を提供するスピードにも影響するため、いまは段取りに気を使っている。
店舗は自己所有で家賃は発生しないが、経費の中で時に5割に届きそうになるのが食材。試したい食材があるとつい買ってしまう。「結局、ロスになることもあって……」と頭を掻くが、このあたり独学で料理を追究してきた、奥田さんらしいと言うべきか。
開店以来、一度来店すると、リピーターになる方が多いそうだ。奥田さんは、これからもっと店のお客さんを増やし、桂にある他のお店とともに、桂を盛り上げていきたい、と優しい笑顔を見せた。オクダ料理店から、桂の飲食シーンに新しい風を吹かせてほしい。
◎店舗情報
店舗名：オクダ料理店
住所：〒615-8107 京都府西京区川島北裏町26-1
電話：075-394-2223
アクセス：阪急桂駅東口から徒歩5分
営業時間：17:00 – 23:00（22：00 L.O.）
定休日：月曜日（月曜日が祝日・振替休日の場合は休み、その他不定休あり）
席数：10席（カウンター６席、テーブル１卓４名）／禁煙
支払い：各種クレジットカード可
SNS：instagram.com/okuda_ryouriten/
（インスタグラム）
※「栃木県にあるパスタの人気店」に関する記事は以下より
コメント