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東京産のオリジナル酒作りに挑むラム酒専門バー


ラム酒オンリーのマニアックな品ぞろえに気後れしそう。しかし、ガラス越しに店内のオープンな雰囲気が伝わり、誰でも気軽に立ち寄ることができるバーだ。

■故郷・八丈島で原料から作る

 いらっしゃい!

 渋谷駅から六本木通りを歩くこと15分、赤レンガ調のヴィンテージマンションから張り出す赤い庇が見えてくる。ラム酒専門バー「TAKANOHA」だ。ガラス越しにラム酒のボトルがずらりと並ぶ店内の様子がうかがえる。
 ラム酒と言えばカリブ海の島々が思い浮かぶが、店主の菊池清孝さん(46)によれば、ウイスキーなどの蒸留酒の中でも最多の4万種以上の銘柄がある世界的なお酒。菊池さんの一番のお薦めはフランスのマルティニーク島産で、原料のサトウキビ独特の青みがあるジューシーな味わいだという。
「ウイスキーやワインと違い、特定の国が最上の評価を独占することがなく、評価基準がフラットであることも、ラム酒の多様な世界観を表している。うちでは約200種を扱っています」
 世界的な酒造ブームが到来してウイスキーはゴールドラッシュ状態、その流れがジンやラムにも来ているが、「日本では日常的にラムを飲むまでには至っていない。まだまだマイナーなお酒です」

▲カウンターにはラム酒のボトルが並ぶ


 バータイムの客はほぼ地元住民で、この店でラム酒に出合った客が9割だという。ラム酒をもっと身近に感じてほしい。そんな思いから、菊池さんが取り組んでいるのが東京産のラム酒作りだ。きっかけは、原田マハ著の『風のマジム』(講談社文庫)。南大東島のサトウキビで、沖縄産のラム酒作りを実現した女性の実話をもとに描かれた小説だ。読み終えた後、菊池さんは、「シンプルに、自分の故郷でもできるのではないか」と考えた。菊池さんの故郷である八丈島は昭和20年代、サトウキビ栽培を行なっていた。さらにさかのぼると、菊池さんの曾祖父が、開拓団33人の一人として八丈島から渡った南大東島で、サトウキビ栽培を始めていたことにも不思議な縁を感じた。
「ラム酒の原料は、サトウキビから砂糖を精製するときに出る廃糖蜜です。ですが世界で5~10%のごく一部の蒸留所では、サトウキビをそのまま全部ジュースにして、そのジュースをお酒に変えるアグリコール製法を行なっている。これを八丈島でやりたいと思ったんです」

▲マルティニーク島産のラム酒(左写真)。ドリンクの1番人気はラムのハイボール(900円~。右写真)


 廃糖蜜のように加熱処理をせずにフレッシュなものを使うことで、先述のマルティニーク産と同様に、その土地ならではの味わいを楽しむことができる。原料から自分たちの手で作った東京オリジナルの唯一無二のラム酒を店で提供する。そこに価値があるのではないかと考えたのだ。
 そのためにはサトウキビの品質がポイントとなるが、祖父とのつながりで、島で一番作付面積が大きい農家が協力してくれることになっている。元キリンビール株式会社の醸造責任者で、醸造学者の本庄啓介さんも仲間に加わった。八丈島の海を見下ろす高台に蒸留所を構える構想もある。
「おかげさまで周囲のサポートは整いつつあるので、あとは資金調達ですね」

▲菊池さん(中央)と醸造学者の本庄さん(右)、山田直記さん(左)の3人が中心となって、ラム酒作りの事業に取り組む


■ラム酒に合うカレーが人気

 店は18年前に友人と開業し、2014年からは一人で切り盛りする。一人で店を続ける決意をしたのは、この事業を実現するためにいつでも八丈島と店を行き来できるよう、フットワークを軽くしておきたかったから。再スタートを切った当初はバータイムのみだったが、現在はランチタイムも営業している。
「日中、近所の人たちが通りを行きかっている間、お店が真っ暗っていうのが寂しくて。この地域の皆さんともっと深くコミュニケーションを取るためには、自分が昼間も店に立ち続けたほうがいいと思いました」
 一人営業でも無理がないようにと、夜メニューのカレーをランチでも提供することにした。ラム酒に合うようにカリブ海諸島のスパイスをふんだんに効かせた無水カレーは、住民だけでなく近隣の企業に勤める会社員にも好評だ。

▲ランチメニューの無水カレーはイートイン900円、テイクアウト800円


 店内の壁には、高校の友人でもある小林雅武さんの油絵が飾られている。開業当初は店内の壁を貸し出して、さまざまなアーティストの絵を2週間から1カ月のスパンで掛け変えていたが、常連客から「いつ来ても落ち着かない」と指摘された。現在は、小林さんの色彩豊かな作品に統一され、居心地の良い空間が広がっている。八丈島産のラム酒ができたら、小林さんにラベルの絵を描いてもらう約束だ。同じ壁の一角には、八丈島の写真とともに、菊池さんの現在進行形の夢の軌跡も掲げられている。

 ありがとうございました!

▲壁のいたるところには小林さんの油絵が飾られていて、購入することもできる

▲店主の菊池清孝さん


◎店舗情報
店舗名:TAKANOHA
住所:東京都港区南青山7-1-12 高樹町ハイツ1F
アクセス:JR渋谷駅から徒歩15分
営業時間:月~金 1130~1400、1800~0時/土・祝 1800~0時
定休日:日曜
席数:15席/喫煙
HP:https://takanoha-minamiaoyamarhumerie.jimdofree.com/

※日本酒も楽しめるワインバーの記事は以下より

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