店舗訪問

【店舗訪問 『まこんち』(東京都・新宿区)】店名に込められた先代に対する思い。グラスの中で砕いた氷がパチパチと弾ける音が心をくすぐるスナック


ゲイだった先代から引き継いで14年目。女性ママが酒場好きの心をつかんでいる。新宿二丁目の裏露地にある穴場の店を訪ねた。

■カラオケなし。おつまみ以外なし

 新宿二丁目とはいっても、ゲイバーやスナックがひしめき、若者や外人たちが集まる中央通り沿いではない。新宿通りを挟んで新宿御苑側のひっそりとした裏露地にバー『まこんち』はある。約30年前に店を始めた先代はゲイだった。店内にはむしろ女性客やノンケが多かったから「ミックス」と呼ばれる形態。2012年に現在の真琴ママが継いだあとは、れっきとした女性だから「スナック」を標榜している。カウンター8席のみのワンオペ。カラオケなし。おつまみ以外の料理メニューなし。黒電話あり。かかる曲は70年代~80年代の昭和歌謡中心。酒場好きが夜ごと集って話の花を咲かせている。

■突き出しはお酒を美味しく飲んでもらうため

「こんばんは。いらっしゃい。今夜もいつもの飲み方でいい?」
常連客がやって来ると、真琴ママは冷凍庫から大きな氷を取り出す。使い込んだレトロな木製の一升枡に入れ、アイスピックを振る。四角い大きめの氷を薄手のグラスいっぱいに入れて酒を注ぐのがこの店の歓迎のしるしだ。
「新宿にある氷屋さんから、一貫目の氷を週に3、4本配達してもらいます。大量に買う店ではないけれど、いつも対面で現金払いだから氷屋さんに『この店には××氷は回せない』と言ってもらっています」
「××」が分かるだろうか? 答えは「角の崩れた氷」。巨大な製氷機から切り出した一貫目の氷の中でも、角が綺麗なものしか使っていない。時間をかけて製氷されているから透明度も純度も高い。氷がグラスで弾けるパチパチという音を聞くだけでも酒飲みは嬉しくなる。

▲氷が弾ける音をぜひ聞きに行ってほしい


 毎日用意される突き出しは6、7品。開店の4時間前から仕込んだ手作りの品を中心にモロキュウや冷や奴、生キムチなどが並ぶ。
「突き出しはお酒を美味しく飲んでもらうために用意しています。乾きモノだけでなく手作りの料理があるとお酒が進むでしょう」
 取材日の突き出しのメインはチリコンカンとお客さまからのもらい物を使ったふろふき大根。トマトの酸味がきいたジューシーな挽き肉のチリコンカンを口にすると確かに酒も「お代わり」となる。
 豊富な話題と愛嬌の良さで巧みに酒飲みをあしらうのが真琴ママの真骨頂。20代から30代の頃は、週に5、6回のペースで二丁目の店に通う筋金入りの酒飲みだった。だから、自分の店は「自分が納得でき、酒好きに愛される店にしたい」。

■酒好きのポイントは時間とお金

 ママの信条は「時間とお金に正確であること」。
「開店はいつも17時。支払いも、伝票をお客さんにしっかり見てもらってから」
確かに酒飲みは店の開店時間と料金には意外とうるさいものだ。17時開店は二丁目にあっては早いけれど、新宿には日没前から呑みたいという酒飲みも少なくない。2026年の元日も店を開けた。酒飲みにはオアシスのような店が必要なのだ。
 価格は先代時代を極力維持している。一皿ごとに突き出しの料金は取らず、セットチャージ2000円のみ(ソーダ代等は別)。現在は先代時代よりもボトルの種類は増えて山崎や白州が1万6000円、グレンフィディック等のシングルモルトが1万4000円、バランタインやバーボンが6000円から8000円。そして麦、芋、米、黒唐焼酎は4500円から7000円で、甲類焼酎は3000円。焼酎やウイスキーのボトル売りがメインだが、ショット売りの客も少なくない。

■客数を増やすために

 わずか8席、しかも話好きの常連が多い店で回転数をどう上げるのか?
「うちは比較的高齢の酒場慣れしたお客さんが多いから、満席の時に新たなお客さまが入り口に現れると、『僕はもう出ます』『私が席をあけるわ』と言って常連の方が譲ってくださることが多い。お客さまが自然とそう振る舞ってくださる事で店の雰囲気はとてもいいんです」
 日本の酒場の常識を解さない外人客には遠慮してもらっている。女性の一人客が目立つのも雰囲気の良さの表れだろう。
 馴染みの女性客が店の来歴を教えてくれた。
「先代は優しくてお洒落。とても女性に人気がありました。病気で店を辞めないといけなくなり、私たちから真琴ママに『継いでよ』と頼んだ。行きつけの店がなくなるのが嫌だったし、先代の面影も残したかったから。それもあって、この店は大事にしています」


 先代よりも真琴ママ時代が長くなったが、店内にはそこかしこに先代の名残が残っている。漆や白磁の器、アンティークな小物入れ、浅草の古道具屋で買ったちょっとエロティックな羽子板等々。けっして高価なものではないけれど、アパレル出身の先代のセンスの良さが偲ばれるものばかりだ。そしてなによりも大切に、真琴ママが先代から引き継いだのは店名だ。
 引き継ぎの最中、「店名はどうするの?」と先代に聞かれ、真琴ママは「今の店名に『ま』の一文字を加えようと思います」。多くのファンが愛した先代と店の存在を受け継ぐため、元々の店名『こんち』に自分の名前から一文字だけ加えた。先代は「その手があったのね」と言って涙ぐみながら喜んでくれた。
 ほぼ居抜きの店舗と約100人の常連客リスト、そして約50本のキープボトルも引き継いだ。代替わりと世代交代で半分近くの客は離れたが、新人ママの船出に先代の遺産は助けになった。
 もちろん新客を増やす努力も怠っていない。夏場に接客を友人知人に任せる「日替わりママ」の日をつくったり、顧客を誘っての日帰りバスツアーを企画したりもした。
 現在、毎月の来店数は25日経営で平均150人。客単価は3000円から5000円。原価率は4割程度。コロナ以降は24時前の早仕舞いが増えたが、休みは日曜祭日のみ。臨時休業はしっかりと掲示して、顧客を裏切らない経営を続けている。
 女性一人でも安心。いつ行っても雰囲気がいい。酒が美味しく飲める。先代からの「味わい」を守りつつ、酒場好きに愛され続けている。

取材・文/神山典士


◎店舗情報
店名:『まこんち』
住所:新宿区新宿2-4-1-104
営業時間:17時~24時
電話番号:03-3353-0883
定休日:日曜日、祭日
アクセス:新宿御苑駅(東京メトロ丸の内線)より徒歩5分
席数:8人
HP:なし

※「現代の奇跡・昭和の名残、新宿西口思い出横町で約20年。常連の心をつかみ続ける家庭料理の店」に関する記事は以下より

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