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1000円ボトルで家飲み気分の居酒屋。町の人の居場所を作る(@葛飾区)


東京都葛飾区の下町の夜を照らす、町の集会所のような居酒屋。財布に優しいお酒と料理に、ついつい長居してしまう居心地の良さ。喫煙者対策にも一工夫している。

🔳値段と時間を気にせずくつろげる場

 
 いらっしゃい! 
 
 京成上野駅から約20分。葛飾区にある京成高砂駅の北口を出て、吉野家の横の細い通りを入ると、1分ほどで左前方に『居酒屋ゆうゆう』の看板が見えてくる。昔ながらの個人商店が軒を連ねる下町の憩いの場として、27時まで明かりを灯し続けている。
「このあたりで深夜までやっているお店は少ないから、どこからともなくお客さんが集まって来てくれます」
 そう話すのは、店長の松崎尋志さん(46)。オーナーである橋本和子さん(75)とともに店を支える。親戚が20年ほど前に始めた店を、橋本さんが引き継いだのが2019年。経営が悪化した店を当時、手伝いをしていた橋本さんが買い取り、8人の従業員全員の雇用を守った。
 松崎店長を迎え、再スタートを切った矢先、新型コロナウイルス感染症の影響で打撃を受ける。
「700日もの間、普通に営業ができなくて、居酒屋で飲むという行動パターンがなくなった今、どうやったらお客さんに来てもらえるのか」
 答えが見つからないなか、現場スタッフのアイディアが突破口となった。ボトルの値段をコンビニエンスストアと同程度の1000円に設定し、時間制限を設けず、“家飲み”感覚で店を利用してもらうことにしたのだ。それまでのあえて高価格で回転率を上げるやり方とは真逆の発想だった。
「お客さんが来たくなるようなものが何か1つでもあれば、という思いでした。とにかくお客さんがいる場を作れば、何かが動くだろうと」

▲店内の棚に並んだたくさんのボトルは、新生ゆうゆうの証し(右上写真)


“1000円ボトル”は地元の人たち、とりわけ20~30代の若い客の心をつかんだ。家飲みスタイルに合わせて、小さな焼きおにぎりや揚げたこ焼きなど、気軽につまめる180円メニューを開発。福岡県出身の料理長が、もつ鍋やチキン南蛮など九州料理も提供する。
 値段と時間を気にせず、くつろいで飲めることが分かると、「今、ゆうゆうで飲んでいるからおいでよ」と、客が客を呼んでくれるようになった。テーブルにボトルと氷と水を置いておけば、あとは客が自分たちで作って飲んでくれる。人手不足のなか、酒を作ったり洗い物をしたりといった従業員の手間が省けた。コロナ前は高齢者が中心だった客層がガラリと変わり、今では若い客のボトルが店内の棚にびっしりと並んでいる。

🔳昔ながらの商売に原点回帰

  オーナーの橋本さんも、現役で店に立ち続けている。誰よりも効率的に注文をさばきながら、時に席に座って客と談笑したり、タクシーを呼ぼうとする客に「近いから乗っていきなさいよ」と、自ら車を運転して家まで送り届けたりすることもある。
「居酒屋というより、昭和のスナックのノリです。オーナーに会いに来るお客さんも多い。システマチックにやろうとしたこともあったのですが、Uber Eatsを辞め、QRコードやタブレット(での注文形式)の導入も見送った。自分たちがやりやすいように、どんどん昔に戻っていった結果、お客さんにとっても居心地が良くなり、この町にはまった。夜の営業開始の17時に入って22時までいる、というお客さんもけっこういますよ」
 と、松崎店長は笑う。

▲居酒屋の定番料理が揃う。ランチの定食はボリューム満点


 深夜の時間帯も、客足は途絶えない。その秘密は22時からの喫煙タイムだ。
 コロナの発生時期と時を同じくして、健康増進法東京都受動喫煙防止条例の施行で2020年4月から飲食店は原則屋内禁煙となり、居酒屋でタバコが吸えなくなった。ただし、喫煙が認められるいくつかの例外があり、そのうちの1つが、施行前に現存していた店舗で、客席面積が100㎡以下、従業員がいない中小企業(資本金5000万円以下)や個人が経営する店舗だ。そこで、22時からは知人の夫婦二人で営む小料理店『夜食屋本舗』として、喫煙可能で営業を開始。すると、行き場を失っていた喫煙者たちが集まってくるようになった。予想していたとは言え、松崎店長は驚いたという。
「タバコが吸える場を求めている人たちがこんなにいたんだ、と。ここにも喫煙者同士のコミュニティーがあって、仲間を呼んでくれるようになりました。22時前になると、店の外で並んで待っていてくれます」
 1000円ボトルと喫煙タイム。この二つが奏功し、売上はコロナ前より好調だ。
「どちらも苦肉の策で、マイナスからのスタートでした。今は、ボトルがあることで、お客さんに居場所がある安心感を持ってもらえているのではないかと思っています。棚をもっと広げて、店の壁中をお客さんのボトルで埋めたいですね」
 コロナを機に生まれ変わった居酒屋ゆうゆうは、懐に優しく生活の場に溶け込み、町の集会所のような存在になっている。

 ありがとうございました!

▲店長の松崎尋志さん


◎店舗情報
店舗名:居酒屋ゆうゆう(22時から「夜食屋本舗」) 
住所:東京都葛飾区高砂5丁目30−11
アクセス:京成高砂駅から徒歩1分
営業時間:月~土/1130~1400/1700~2700、日/17:00~22:00
定休日:なし
席数:50席(テーブル席、座敷)
喫煙・禁煙:禁煙(22時から喫煙)
HP:http://yu-yu.website/index.html

※「音威子府そば」に関する記事は以下より

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