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「うどん県」にあらわれた、手軽に楽しめる本格割烹の『寿あん』


名門割烹で修行した主人が故郷でふるまう滋味豊かな地元の食材と確かな技術による「口福」。地元産の幻の唐辛子がアクセントとして効いている。

■素材の魅力を最大限引き出す本格割烹

 いらっしゃい!

 JR予讃線丸亀駅を出て東に線路沿いを5分ほど歩くと、ワインレッドの外壁が見えてくる。それが『寿(じゅ)あん』の目印だ。ガラス張りの扉を開けると「いらっしゃいませ」と主人の小松壽朗さんが出迎えてくれる。『寿あん』は丸亀では数少ない割烹の一つで、四季折々の食材を、その魅力を最大限に引き出した形で出してくれる。
「丸亀を含めて香川、いや讃岐は、食材がとても豊かな土地。目の前は瀬戸内海で海産物には困らない。オリーブ牛という和牛のブランドもあるし、香川県産の野菜も種類が多い」

 小松さんは高校卒業後、大阪にある名門『吉兆』で修業を重ねた。20年以上勤めた後に独立し、大阪の繁華街である京橋で立ち飲みの店を構える。狭い店だったが、一流の味を立ち飲みの価格で楽しめるということで、美味しいものを求める酒好きが集まった。店名は現在と同じ『寿あん』の人気のメニューの一つが八寸。日本料理の献立の一つで、旬の山と海の幸を少しずつ取り合わせたものだ。中でもごま豆腐は人気で、雑誌やテレビで取り上げられるようになると、店の前には開店前から行列ができた。
 浮き沈みの激しい飲食業界で存在感を放っていたが、いくつかの転機が重なって小松さんは故郷の丸亀に戻ることを決める。
「以前、善通寺で父の割烹を手伝っていたのですが、その時のお客さまたちが、いろいろな面で背中を押してくださいました」
 こうして、寿あんは丸亀で再スタートすることになった。2011年のことだ。

▲雲丹と鮑のご飯(トリフのせ)

■日本料理の粋を極めた料理と遊び心

 大阪では立ち飲みだったスタイルを、丸亀では想定される客層に合わせて割烹という形にした。丸亀市とその近郊には大きな会社がいくつかあり、自治体も税収で潤う。
「社用だったり、プライベートだったり、まちまちですが、年配のお客様がいらっしゃることが見込まれたので、懐石のコースでおもてなしをさせていただくことにしました。季節を感じていただける料理を10品ぐらいお出ししています」と小松さん。お店は予約なしでも入れるが、やはり旬の食材を堪能するなら懐石のコースを予約するのがベター。先付けから始まって、お椀、向付、焼き物と続き、最後の水菓子まで、小松さんがこれまでの修行で身につけたことが注ぎ込まれている。とりわけ腐心しているのが、いかにして素材のおいしさを最大限引き出すか、だ。毎朝の仕入れは、自分でハンドルを握り、近郊まで車を走らせる。ご馳走という言葉の語源は、「亭主が走り回って食材を集め、客をもてなす」ことという。まさに小松さんが手がける料理は、ご馳走そのものである。
「旬の食材を使うのでおすすめはその日その日で変わるのですが、今の季節ならかぶら蒸しや寒ぶりの雪なべをおいしくいただけます」

▲八寸の一つ、ぼんぼり(左写真)と水菓子のフルーツゼリー寄せ


 目でも楽しめるところに経験と技術の豊かさがある。例えば、八寸でお膳にさりげなく添えられているのは、桜や藤といった季節の花。3月の桃の節句には、大根を薄く剥き円筒状にしてぼんぼりに見立てる。そんな中、小松さんの遊び心が顔を出す献立もある。その一つが、金時人参のかき揚げ。讃岐地方の名産『讃岐三金時』の一つ、金時人参を細切りにしてかき揚げに仕立てる。隠し味は地元産の貝柱。小さく切って混ぜている。サクサクに揚がった金時人参の甘さと貝柱の風味が相まって、文字通りの口福である。
「東京の知り合いから人参のかき揚げを食べたらおいしかったということなので、本歌取りさせてもらいました。貝柱はちょっとしたアクセントです。旬の味と食感を楽しんでもらえたら」

▲オリーブ牛_雲丹包み_トリフ添え


■地元の食材の素晴らしさを伝える伝道師として

 小松さんは、絶滅しかけていた食材の復活を応援するプロジェクトに関わる。『香川本鷹』という鷹の爪。香川本鷹は長さが7~8センチと大振りだ。上品な香りと強い辛味が特徴となっている。
 もともと豊臣秀吉の朝鮮出兵の際に持ち帰られたとされる。香川県沖に広がる塩飽(しわく)諸島で栽培されていて、昭和に入って海外からの安価な唐辛子に徐々に淘汰され、絶滅したと思われていた。しかし、10数年前に種子が保存されていることが分かり、自治体が中心となって、香川本鷹復活プロジェクトが立ち上がった。
 うどん県の香川でオーソドックスな食べ方である『ぶっかけ』(ゆがいたうどんに醤油をかけて食べる)で使う醤油に本鷹の風味を移したものを使うと、ピリッとした存在感を醤油の中に感じることができる。小松さんがお勧めするのは、本鷹を使っただし巻きだ。出汁のきいた卵の風味に、本鷹のアクセントが際立つ。
「讃岐の野菜は滋味がしっかりしていて、お鍋をしても、通常の唐辛子を入れても引き立たない。それぐらい食材の力が強い。でも、香川本鷹ならおいしく引き立ててくれます」
 幻の鷹の爪は、食材豊かな丸亀で確固とした存在感を放つ寿あんの文字通りのアクセントとも言えそうだ。

ありがとうございました!

▲料理と向き合う小松壽朗さん


◎店舗情報
店舗名:寿あん
電話:0877-85-7287
住所:香川県丸亀市魚屋町 33-1
アクセス:JR予讃線丸亀駅より宇多津方面へ徒歩5分
営業時間:17時から23時まで(LO10時まで)
定休日:日曜日(月曜日が祝日の場合は、連休となります)
座席数:カウンター6席、テーブル12席(奥座敷あり)
禁煙・喫煙:全面禁煙
HP:https://juan2003.com

※東京新宿の焼きたんに関する記事は以下より

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