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おせち代わりのラーメンをルーツに持つ隠れ家店の勝負味(@神楽坂)


古き良き日本が残る神楽坂に、伝統的な中華そば風のラーメン店が開店した。幼いころからラーメン道を極めてきた男が、40歳になって勝負に出た。激しいラーメン店の生き残り競争を勝ち抜くため、続けていることがある。

🔳 神楽坂の喧騒を離れて

 いらっしゃい!

 神楽坂を上がって行く。約4分。坂上の手前を左に折れ、右側にあるイタリア料理店のビルの一階奥に、そのラーメン店はあった。見つけにくい。だが、それがこの店の魅力なのかもしれない。
 近年、神楽坂は、訪日外国人に「都心にあって古き良き日本がある町」として人気が急上昇中だ。そのせいで最近は平日の昼間から、地元民と外国人観光客でにぎわう。その喧噪を離れて一歩入った通りのビルのさらに奥にある、隠れ家的なラーメン店が、『Japanese Noodle 葉山 神楽坂店』だ。
 店内は壁と床、カウンター、テーブルも木目調で、ラーメン店とは思えないほどスタイリッシュだ。オープンキッチン内も整理整頓されている。店内全体が、ゆったりとしていて清潔感があるのは、6月にオープンしたばかりだから、というわけでもないらしい。

▲この看板が目印。つきあたり奥のドアが「葉山」の入口


 店主の鈴木理啓(まさひろ・40)によれば、もともとはカレー店だったのが、昨年11月に閉店。サッカー仲間から、その店舗で飲食店を開ける人を探していると聞いたのが、4月上旬のこと。オーナーと1カ月ほどで話をまとめて契約し、1カ月ほどで開店準備を整えて6月8日のオープンにこぎつけた。「だから、内装はほとんど変えていません。厨房の器具はラーメン店用に変更しましたが、内装はカレー屋さんの時代と、ほとんど変わりません」
 手狭な店が多い神楽坂にあって、ラーメン店ながらひと息つける空間なのは、そうした理由から。路面店にはない、魅力がここにはある。

▲木目調の店内はきれいでスタイリッシュ。席もゆったりとしている

🔳 おせち代わりのラーメン

 なぜ、鈴木は競争が激しいラーメン店の開業を決断し、わずか2カ月で開店することができたのか。「うちの親父は若い時分、中華料理店で働いていて、正月になると、鶏ガラでスープをとる、本格的なラーメンを作っていたんです。これが美味いと評判で、1月2日に親父の中学時代の同級生たちが我が家で飲んで、その手作りラーメンを食べる、というのが恒例行事でした。我が家ではラーメンが、おせち代わりだったんです。いつか親父みたいに、美味いラーメンを作れるようになりたい、と思って育ちました」
 サッカーを本格的に始めた高校時代から、主食はラーメンだった。大学時代はサッカーで腹を減らし、あらゆるラーメンを食べ歩いて腹を満たす日々を送った。年間で500杯食べたというそのころから、いつかラーメン店を開業したい、と思うようになった。
 英国留学を経て、経営コンサルティング会社に就職し、スポーツ関係の営業職に転職。4年前に独立して、スポーツ整骨院を経営するようになった。そのうちにラーメン店を開くという夢は、「40歳で開業」という具体的な目標へ変わった。
 開業準備のため、38歳のとき、池袋の『皇綱家 (きづなや)』という家系ラーメンの有名店で武者修行を始めた。続いて昨年は蒲田にある二郎系のラーメン店の経営立て直しを頼まれ、何とかそれをやり遂げた。いよいよ開業に向けてリサーチを始めていたとき、この神楽坂の物件の話を聞いた。

🔳 ルーツの味で勝負

 ラーメン店の開店には、通常1000万円以上の初期費用がかかるといわれるが、300万円と格安に抑えることができた。厨房の設備を少し変更し、新たに券売機を購入。あとは食器や看板など。最小限の改装で済ませた。
 もっとも腐心したのは味の設定だ。「ラーメン好きな人たちと、神楽坂の地元の人たちは、求めるものは違います。僕は地元の人たちに愛される店にしたかった。だから開店前の数週間、準備の傍ら、地元の人たちがどんな味を求めているのか、神楽坂のあらゆる飲食店を食べて回りました。行き着いたのは、淡麗系といわれる、鶏ガラのしょうゆラーメン。それは親父のラーメンです。自分のルーツになっている味で、勝負することにしました」。

▲看板メニューの「HAYAMAラーメン」は1,000円。スープは伝統的な中華そば風


 看板メニューの「HAYAMAラーメン」(1,000円)は、昔懐かしい中華そばの味だ。あっさりだが、分厚い豚バラチャーシューと肩ロースが、こってり感を出す。かなり美味い。伝統的な味でありながら、若者の胃袋も満たす。
 ラーメン店は全国に約2万4000軒以上あって、年間に3000軒が新規開店するが、半年後には約半分が閉店する厳しい世界。そこで生き残るため続けているのは、味を知ってもらうことだ。経営コンサルティング会社に勤めていた時代に得た学びでもある。「その昔、飲食店は、美味しいものを提供すれば、お客さんはそれを求めて食べに来てくれる、と言われていました。でも、いまは美味しいものを作ったうえで、さらにそれを知ってもらうことが大事です」
 SNSだけではない。地元の集まりがあると聞けば顔を出し、直に宣伝もする。
「みなさん温かくて、優しい人ばかり。いろんな助言もいただきます。地元の人たちに知ってもらい、愛される店にならないと、店は続けていけない、と思っています」

▲夏限定の「HAYAMA冷やし」は1,200円。レモンとトリュフが香る


 味を極めるために進んできたラーメン道に、店を維持していくという経営のタスクも加わった。息子の奮闘を父親は、さぞ喜んでいることだろう。
「実は昨年、他界したんです。自分の店で、自分のラーメンを親父に食べてもらうことはかなわなかった。でもきっと天国から、応援してくれている。そう思っています」
(敬称略)

 ありがとうございました!

▲親父のラーメンで、神楽坂で勝負をかける鈴木理啓

◎店舗情報
店舗名:Japanese noodle 葉山 神楽坂店
住所:〒162-0828 東京都新宿区袋町2 杵屋ビル1階奥
電話:080-7944-2812
アクセス:地下鉄飯田橋駅から徒歩6分、地下鉄牛込神楽坂駅から徒歩5分
営業時間:月・土・日・祝日は11:00 – 15:30、火・水・木・金は、11:00 – 14:30、17:30 – 21:30
定休日:なし(不定休)
席数:15席(カウンター5席、テーブル10席)/禁煙
SNS:www.instagram.com/japanesenoodlehayama/(インスタグラム)

※「元プロサッカー選手の鶏白湯ラーメン」に関する記事は以下より

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