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博多の「空白地帯」のコーヒー店がくゆらすこだわりの味の裏側


福岡の繁華街、天神の南側のオフィス街に、深煎りコーヒーの香りが立ち上がる。カフェの「空白地帯」で老若男女を集める人気の店がオープン2年目の『coffee(カフェ)環~kaN~』。3姉妹が、福岡では珍しい濃い味に込めたこだわりの中身とは何か。訪問取材した。

■最後の将軍ゆかりの味を再現

 夏目漱石など昔の文人は、煙草を吸う場面で「くゆらす」という言葉を使ったが、煙を緩やかに立ちのぼらせるという意味で、芳醇なコーヒーの香がゆるやかに立ち上る様にもこの言葉が合っている。
 福岡の繁華街、天神の南側のオフィス街に、深煎りコーヒーの香りが立ち上がる。
「豆はサザから取り寄せていまして。『将軍』のファンが多いでしょうか」
 ドリッパーに細い湯を落としながら、『カフェ環』の店主、坂本幸代さんは話す。
将軍とは、徳川慶喜公が欧米公使をもてなした珈琲を、文献を基に再現した豆のことで、サザの主力商品。この店でも人気だ。

▲サザ秘伝の将軍コーヒー インドネシア産スマトラコーヒー豆の深煎り


 福岡市中央区清川の日赤通り沿いに『環』はある。福岡市のショッピング街といえば天神だが、人口の増加とともに天神の南部である薬院にも飲食店が増えてきた。『環』は薬院の更に南側の清川にある。最近、少しずつ店も増えてきたがまだまだ少ない。そんな「空白エリア」に2023年1月にオープンしたのがこの店である。
 空白エリアにオープンした本格的なスペシャルティコーヒーの店。人目につきやすい大通りに面していたこともあってか、瞬く間に人気の店になった。

■徹底した「サザ」へのこだわり

 店をはじめたきっかけは茨城の実家のほど近くにあったサザコーヒー。大学生の自分には大人の雰囲気がしたが美味しいと聞いて、背伸びをして入ってみた。
「今まで苦くて飲めなかったブラックコーヒーのうまさを知ったんです。それからは、週1回は行くようになりました」
 カフェが好きな姉と店で話していたとき、ふと「キャッツアイみたいに姉妹でカフェやれたらいいね」という話題になった。ちなみに店主はキャッツアイと同じ三姉妹。店に実際に立っているのは坂本さんだが、経営方針やメニューの考案などは、姉と妹も加わって3人体制で行っている。

▲深煎りのマンデリンを使用。ハンドドリップで丁寧に落とし、雑味を取り除いている


 結婚を機に、福岡に転居。子供に手がかからなくなったころ、キャッツアイの夢を語った姉と、「カフェをやりたい」という夢を実現させることにした。どうせやるならサザのコーヒーをやりたいと、思い切ってサザの社長に話すとOK。味も完璧に再現したい。そして偶然にも、バリスタの日本大会で3位になったサザのバリスタと妹が知り合いだったことで、サザのレシピを徹底的に教わった。
 味を再現するために店で使用するコーヒーグラインダー、エスプレッソマシンなども、すべてサザで使用されているものを準備した。費用はその分かかったが、味の再現のための出費は惜しまなかった。自分の好きなものに囲まれていたい、との思いから、店の家具にはヴィンテージ家具を揃えた。開店には1千万円近くかかった。

▲東京千駄ヶ谷「SHARK ATTACK」で購入。店内の家具は北欧ヴィンテージの一点もの


 店をオープンさせた当初、周辺に会社が多くあることからターゲットは20代~30代のビジネスマンと考えていた。テイクアウトしたサザのコーヒーを持って会社に向かう姿を想像したが、実際は足早に通過するだけで店には入って来ない。
「飲食店が少ないのでランチを提供すればビジネスマンの入店が期待できるだろうとは思いましたが、やはりまずはサザの味と香りを楽しんで頂きたい。だからカフェ専門で行くという当初の方針のままで続けることにしました」
 ビジネスマンはなかなか振り向いてくれなかったが、コーヒー好きのOLや近隣に住む高齢者、若いカップルなどが訪れるようになった。

■夜の閉店時間延長も奏功

 店で人気のコーヒー「将軍」は深煎りだが、実はなぜか福岡のカフェで提供されるコーヒーは浅煎り、中煎りが多く、深煎りの店が少ない。深煎りを飲ませてくれる店があると聞いて訪れる客も増えていった。
 また手作りのチーズケーキも人気だ。サザの深煎りコーヒーに合うよう、試行錯誤して完成させた。ダイエット中の女性も罪悪感なく食べて欲しいとの思いからカロリー控えめのきび砂糖を使用している。

▲将軍コーヒーに合うようパティシエ監修のもとコクのある味に仕上がっている


 経営が安定化しはじめたのは夜の営業を延長してからだ。オープン当初、夜9時までの営業だったが現在は11時まで閉店時間を延ばした。
「お酒飲んだ帰りにコーヒーを飲みたいから、もっと店を開けておいて欲しい」
 そんな声に後押しされたのもあるが、実際、夜にコーヒーを注文する客が多かったのも事実だ。夜カフェ需要がこれほど高いとは思わなかったそうだ。もちろん、お酒を提供することによっての収益も上がった。11時まで営業時間を延ばしたことで1日の売上が10万円近くになるときもある。
 今では老若男女問わず店を訪れるが、なぜか写真を趣味にする人が多い。要望があれば作品を飾るミニ個展のようなイベントを開く。これまで何度か催したが、通常、昼の売上は1.5万円程度だがイベントを行うと倍位以上になる。当然、夜にかけても売上は伸びる。しかも店を知ってもらういい機会にもなる。
「少しでも長くお店を続けていくなかで、ひとりでも多くのお客様に出会えることが私の夢といえば夢でしょうか」
 カフェ空白地帯のキャッツアイの店には、今日も多くの客がコーヒーをくゆらせに訪れる。
 
 ありがとうございました!

▲店主の坂本さん。店内にはコーヒーの香りが漂っている

◎店舗情報
店舗名:coffee 環~kaN~
住所:福岡市中央区清川2-18-19 GRAND BASE天神南101
電話:092-284-7292
アクセス:市営地下鉄七隈線 渡辺通駅徒歩9分 薬院駅徒歩12分
営業時間:1300~2300
定休日:不定休
席数:カウンター4席、半個室6席(禁煙)
SNS:https://www.instagram.com/coffee_kan.s/

※「直火式焙煎コーヒー店」に関する記事は以下より

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