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駒沢の地元民が集う創業38年の昭和風カラオケスナック。2代目マスターがお店を続ける理由


レトロな店内で飲むからか。懐かしい昭和歌謡が聞こえるからか。それとも2代目店主が聞き上手だからか。バブル絶頂期に開店した老舗のカラオケスナックには、夜な夜な地元民を引き寄せる魅力がある。

🔳 世田谷区の環七沿いにある「昭和」

 いらっしゃい!

 駒沢大学駅から渋谷方面へ向かって国道246号沿いを進み、環七との交差点を渡って左へ曲がって進むと、車のヘッドライトが行きかう間から、「伊代」という電飾のスタンド看板が目に入る。
 狭い木の階段を上がって店内に入ると、そこはまさしく「昭和」だ。創業38年を迎える『カラオケスナック伊代』の2代目のマスター大塚和也(55)は「母親の時代から変わらず、うちはずっとこんな雰囲気です」と笑う。
 レトロを狙っているわけではなく、ただ内装を変えていないだけ。変わらない「昭和風情」に引き寄せられるように、夜な夜な駒沢の老若男女が集う。みなただ飲みたい、歌いたい、語りたい、話を聞いてもらいたいという思いで、やって来るのだ。
 お互いに顔見知りの常連客が多いが、「ずっと気になっていた」と来店する一見の若者客もいる。

▲赤いベルベットのソファーと止まり木が昭和風情をかもす▲


 3500円で飲み放題、歌い放題。持ち込みも自由という低価格と自由さも魅力だ。「好きにやって~」と言い残してマスターは居眠りをしてしまうこともある。
 そんなときは、常連の誰かがカウンターに入って、空いたグラスにお酒を作ることもある。近所の常連の女性はその代表格だが、彼女が「伊代ママ」だと思い込むお客さんも少なくない。雨漏りや、戸や看板が壊れたときは、近所の看板屋さんが駆けつけ、あっという間に直してくれる。

▲常連客を中心に勝手に盛り上がる週末の店内

🔳昭和61年のバブル絶頂期にオープン

 母親が店をオープンしたのは、1986年10月。知人から200万円を借りて、開店資金にした。日本はバブル期の真っただ中。ホステスも数人いて、近所のおじさんたちの社交場だった。
 初代オーナーの名前が「伊代」というのなら話はわかりやすいが、実はそうではなく、彼女に開店資金を貸してくれた知人が、将来娘が生まれたときのためにと温めていた名前だったのだ。
 結局、知人の子どもは全員男の子だったので、実在しない女性が店名として40代を迎えることになった。この話は常連でも知る人は少ない。さらにその知人が昭和のアイドル、松本伊代のファンだったのかどうかを知る者もすでにいない。
 ともあれ、オープン当初は高校生だった和也も手を貸すほどの盛況ぶりで、開店資金はほどなく完済。改築してフロアーを広くし、40人以上が入れる大箱のカラオケスナックにした。時代に合わせたとはいえ冒険だったが、にぎわいは続いたという。
 時代は平成へと変わり、バブルが崩壊してからも「そこそこ」の状態で店は続き、21世紀に入ろうかというころに母親は引退。和也が店を引き継いだ。再び改築して規模をオープン当初の席数20に戻して再出発した。

▲スマホが普及する以前、店内で撮った紙焼き写真

🔳 珍事件や出会いと別れの舞台に

 38年の歴史は長い。いかにも昭和な逸話も残る。一歩入ると住宅街なのだが、店は環七に面しているので、カラオケスナックによくありがちな、深夜の騒音のクレームはほとんどない。だが店の自由な雰囲気が引き起こしたのか、客の一人が夜中にトランペットを吹いて、パトカーが駆けつける騒ぎになったこともあるという。
 スナックで出会い、結婚したカップルもいる。常連客には成長した息子や娘を連れ、飲みに来る者がいれば、あの世へ旅立った者もいる。出会いと別れはスナックの常。元カノや元カレが遭遇し、険悪なムードになったことも一度や二度ではない。
 コロナ禍は、店を直撃した。東京都からの要請は20時閉店だったが、そもそもの開店時間だ。結局2年間、ほぼ店を閉じた。「協力金でなんとかしのいだけど、コロナが終わっても、戻ってこなかったお客さんもいる。協力金を店じまいの資金にあてて廃業したお店は、駒沢だけでも何軒もあります」
 だが、「伊代」はやめなかった。
 店を維持していくには、家賃と光熱費などで、ひと月に20万円はかかる。「どこかの飲食で雇われて働いたほうが体も経済的にも楽です。でもそれじゃつまらない。いままで、一度もやめようと思ったことはありません」
 先日、娘が別れた前妻と一緒にふらっと飲みに来てくれたという。店を続けているからこそ、そうした場がある。半世紀近く、人と人をつないで場所が、自分自身にとっての救いになっているのだ。
「あと2年は続けて、40周年記念パーティーをやりたいな、と。おふくろも草葉の陰から喜んでくれると思う」。
(敬称略)

 ありがとうございました!

▲「少なくともあと2年は続けたい」と2代目マスターの大塚和也

◎店舗情報
店舗名:カラオケスナック 伊代
住所:東京都世田谷区上馬2-2-7
電話:03-3487-8451
アクセス:駒沢大学駅から徒歩6分
営業時間:月~日・祝日/2000~2700
定休日:なし・不定休、お盆、年末年始
席数:20席(カウンター4席、テーブル16席)
喫煙可
HP:なし

※『たん焼 忍』の記事は以下より

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